ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー大江戸学園大通りー

桃子「大丈夫だって。要は、このバスをここからどかしゃあ良いんだろ」

想「それは、ええ……そうですけど……」

桃子「そんならやっぱ、あたいの出番だ。危ないから、逢岡たちは下がっててくんな。」

そういいながら、鬼島さんは金棒を大きく振りかぶる。

想「ちょっ、鬼島さん!?」

桃子「どっせええぇぇっ!!」

思い切りよく叩きつけられた金棒が、バスの横っぱらを大きくへこませた。

吉音「うっきゃー!!」

歓喜をあげたのは吉音ひとりだ。

男子生徒A「うわぁ!?」

女子生徒A「きゃあっ!!」

想「……あっ!皆さん、危ないですから下がって!!」

逢岡さんの声に、他の同心もはっと自分たちの仕事を思い出して、人だかりをバスから遠ざけにかかる。そんな背後の慌てようなど気にもせずに、鬼島さんはまたも金棒を大きく振りかぶる。

桃子「だっしゃあああっ!」

寒気がするほど激しく叩きつけられた衝撃で、今度は窓ガラスが一斉に飛び散る!

男子生徒B「うわあぁっ!」

女子生徒B「いっやあぁっ!」

吉音「わほーっう!!」

悲鳴をあげて逃げ惑う群衆と、その中でひとり、歓声をあげて興奮している吉音。

想「みなさん、慌てないで!大丈夫ですから、私たちの指示に従って、どうか落ち着いてください!」

混乱を収めようとして奔走する、逢岡さんやそのほか、町方同心の面々。ああ……なんという阿鼻叫喚……。

桃子「もいっちょおおぉっ!!」

吉音「もっとやれぇーぃ!!」

桃子「よっしゃあっ!いくぜえぇっ!」

吉音の歓声に答えて、滅多打ちが始まる。鬼島さんが金棒を一振りするたびに車体がへこみ、砕けた部品が辺りに飛び散る。逢岡さんたちの努力で群衆はだいぶ離れていたから、その破片が人に当たることは無いだろう。

吉音「やれーっ!eいけーっ!!」

吉音は最初の位置から一歩も下がっていないけれど、不思議とかすり傷一つ負っていない。ちなみにおれは、しっかりと距離を取っている。

桃子「おぉっらああぁっ!!」

金棒の一撃に、バスの扉がはじけ飛ぶ。

悠「うーわぁ……」

桃子「どおぉらあっ!!」

外層がやすやすとはぎ取られ、屋根が落ちる。
むき出しになった座席が次々叩き潰されていく。

吉音「あたしもやるーっ!」

とうとう我慢できなくなったらしい吉音が、腰の刀を抜いて飛び出していく。

桃子「おっ、やっと来たか!よっし、一気に行くぞぉ!」

吉音「おうよー!」

二人の獲物が狙いを定めたのは、最後に残された大物、バスの命ともいえるエンジンだ。

悠「……って、エンジン!?新、待てえぇ!!」

想「二人とも待ってください!!」

おれと逢岡さんは肺の中身を空にして叫んだけれども、どうせコイツらは聞いていない!

桃子「いっくぜえぇっ!!」

吉音「いま必殺のおぉっ!!」

ほォら、やっぱり聞いていない!!

想「たっ、退避!全員、退避!!」

吉音・桃子「「でえぇっやああぁぁーーっ!!」」

ゴーーンッ!!

桃子「いやぁ、いい汗かいたぜぇ」

吉音「気分爽快だねー」

悠「……こっちは寿命が縮んだよ」

楽しげに笑っている吉音と鬼島さんを見ているうちに、さっきから何度ともしれないため息が出てくる。十数分前まで確かにバスだったはずの物は、今は見事なバスの残骸に変わり果てていた。折ってはがしてバラバラにして、更に叩いて潰して小さく丸め……それは解体というより圧縮作業だった。

男子生徒A「いやぁ、良いもんみせてもらったぜぇ」

女子生徒A「鬼島さんのボーナスステージ、始めてみちゃった~。今日はラッキー♪」

最初は混乱していた群衆も、途中からは遠巻きに歓声をあげて、鬼島さんの廃車解体ショーを楽しんでいた。ちなみに、エンジン周りも解体圧縮されている……というか、粉々にされている。燃料はしっかり抜かれており、火花に引火して爆発することも無かった。だけど、こういう部品って、きちんと解体して再利用したりするもんなんじゃないっけ……?

想「はぁ…」

ちらりと横目で見やると、逢岡さんも複雑そうな顔でため息をもらしていた。

桃子「しっかしひと暴れしたら腹が減ったな」

吉音「うんうん。お腹ぺっこぺこだよ」

桃子「って事で、悠。通せんぼしていたバスも解体したことだし、さっさと帰ってお茶にしようぜ。」

吉音「わーい、そうしよー!」

悠「……っはぁ」

ああ、ため息が止まらない。

想「良いですよ、小鳥遊君」

悠「ですけど…」

改めて確認するまでもなく、辺り一帯にはバスの破片や残骸が散乱している。それは疑いようもなく吉音と鬼島さんのせいで、これを片付けるのは一苦労だろう。

想「後の片付けなどは私たちの仕事ですから、小鳥遊君たちはどうぞいってください」

大きなことから小さなことまで、面倒を見なければならない立場のとは大変だなあ。
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