ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

「もう夜か…」

棚に残っていた茶葉などの備品を確認しているうちにどっぷり日が暮れていた。どのくらい客が来るかはわからないが、それでも仕入れはしておかないといけない。

まぁ…今日来たのは数人と客かどうかわからない紅と拳二だったしな。

「ま、なんにせよ明日だな」

今日はもう家に帰らずここに泊まろうっと木戸を閉めたとたんに戸を叩く音がした。
こんな時間に誰だと閉めたばかりの戸を乱暴に開けた。

するとそこにはマフラーを巻いた少女が手を振っていた。

「仲村さん」

「こんばんは。こんな時間にすみませんねぇ、もう寝てましたか?」

「いや、大丈夫。何か用事?」

「定期見回りです。ちょっといいですかね?」

「はい?」

俺はなにか話しでもあるのかと身を乗り出した時だった、視線の隅から黒い影が飛び出したと思うと、鈍い衝撃が鳩尾に走った。

「ぐわっ!」

「ぁん?」

「か、かてぇ…」

鳩尾に拳を打ち込んできた奴はよく見ればいつぞやのチンピラだった。
おれは軽くため息をついた。

横で驚いた顔をしている往水を店の中に押して、すぐにチンピラの腕をとって捻りあげると情けない悲鳴をあげる。

「いぎぐっ…」

「テメェまたかよ。懲りないやつだな。しかも、仲村さんの後を着けてくるとは運がないな…。すぐにしょっぴいてもらうからな」

「こ、このっ!」

チンピラは自由がきく左手をポケットにいれたかと思うと、白い布のようなものを抜いておれの方に二度三度振る。
なんだろうか、白旗降参のつもりだろうか。

おれはさらに腕を締め上げた。

「なにしっ…あ……れっ?」

視界が歪む。
足に力が入らなくなって、崩れ落ちながら意識が薄らいでいく中で最後に見たのは往水の苦笑いした顔……だったような気がする。

悠が倒れるとゾロゾロとチンピラが集まってきた。

「まったく、なんてヤロウだ。」

「しかし、この薬やべぇな。使った本人まで眠ってやがる」

「妙なガキから買った物らしいぜ」

ガヤガヤと話しているなか、チンピラの頭領である貞三が往水に近づいた。
倒れた悠の傍らでチンピラから袖の下を受けとる。

「じゃ、これが謝礼」

「こりゃ、どうも…」

「それにしてもあんたも悪だねぇ。見廻りとかいいながら俺たちの手引きとぁ」

「まぁ、世の中は綺麗事じゃないんでね」

「ちげぇねぇや。」

チンピラたちは二人がかりで悠を背負っていった。

「兄貴、運べますぜ」

「おう。それじゃ急いで戻るぜ。それじゃあ」

往水はひらひらと手を振った。
チンピラたちの姿が見えなくなると往水はおもむろにケータイを取り出した。

「さてと……あーもしもし。逢岡様ですか?はい、中村です。すいません。実はたった今あたしの不手際で小鳥遊さんがさらわれてしまいまして……」

「悠たんを拉致か……面白いことになったわん。」

その様子を影から見ていた男は静かに闇に消えた。
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