ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー校庭ー

はじめ「かといってあまり長引かせるつもりもないからね。ここは一太刀で……」

「夜中まで騒がしいぞ!皆神妙にしろ!」

はじめ「っ!?」

大きな声が会場全体に響き渡った。皆一瞬動きを止め、声の主へと視線を向ける。

越後屋「だっ、誰や!」

平良「火付け盗賊改め方、長谷河平良であるっ!」

越後屋「火盗やて……なんでそんなんが、ここに来るのん」

左近「はは、いやいやぁ、これだけの騒ぎを起こせばねぇ。」

詠美「出て来ない方が不自然でしょう?」

越後屋「うぐっ……徳河様……あなたまでいらっしゃるとは……」

詠美「ただ賭場レースをするだけなら、場合によっては目をつぶれないこともないけれど……こんな乱闘騒ぎを起こされては、さすがに見過ごせないわ」

徳河さんと長谷河さんだ……あと左近。その後ろには火盗の人たちがずらりと並んでいる。こういう暴動を抑えるプロだし、これで安心かな。

平良「さあ抵抗する奴からどんどんしょっ引け!二重にも三重にも違反行為をしている輩だ、覚悟も出来ているだろう!」

左近「はいはい、抵抗はやめてくださいねぇ。本気で痛い目みますよ。」

長谷河さんに指示された火盗が、さすがの手際で暴漢を捕えていく。

朱金「おいてめぇ、なにしやがんだ!邪魔だ!」

平良「火盗の公務を妨げるつもりか。お前の方を捕えたらいいのか、遊び人の金さん?」

朱金「ぬっ…」

知っている人は知っているとはいえ、町奉行が賭場に入り浸りというのは聞こえが悪い。ここは朱金も、牙を治めるを得ない状況だ。

左近「はっはっは、金さん。あとはお任せしときましょうよ」

朱金「左近……。てめぇ、なんで火盗となんてつるんでやがんだよ!!」

左近「そりゃ、私はこうみえて正義の味方ですからねぇ。一番手堅くて被害の出ない方法をとりますよ……佐東さん、アナタもですよぉ。抵抗を続けるようなら、越後屋さんの身のためにもならないですよ。あと、その人……刀持ってないときは厄介ですよ」

はじめ「……ちっ」

同様に、おれに斬りかかろうとしていた佐東さんも刀を引いた。おれも拳の緊張を解く。

想「いろいろと手間取ってしまいましたが、ようやくこの件もおしまいですね」

越後屋「くぅぅ……貸したモン返さへんのや。それを責めて何か悪いんか?そもそも賭博は禁止されてることや。どうなろうが覚悟は出来てるはずやろ?」

想「お言葉のとおりですね。ですから私は彼らを救うつもりはありません。相応の罰を受けていただきます。越後屋さん、あなたも同じですよ」

越後屋「……あんさん、意外に話しの通じんお人やったんですなぁ」

想「これは手厳しい。私は誰に対しても平等なつもりですが」

詠美「そうね。それを言うならあなたも覚悟が出来ているということでしょう?首領のあなたこそ、潔く縄につくべきではないかしら」

越後屋「あぁもぅ……誰も彼も面白ぅないことばっかり。ほんに人情のない学園やわ……ヨヨヨ」

越後屋は、火盗に連れて行かれる最後の瞬間まで、演技がかった調子だった。

朱金「フン、どんなもんだ。お前ら程度じゃどれだけ束になっても相手にはならねぇよ」

ようやく一息ついたところで、朱金が口を開いた。ひとりで何十人も蹴り倒しておきながら、多少呼吸が荒いくらいでケロリとしている。

悠「……」

朱金「まったく、どうしてこう懲りねぇヤツが多いんだか」

しかしいつも思うんだが……立ち回りを演じた朱金って、目のやり場に困るんだよな。

悠「……」

朱金「なぁ、悠もそう思うだろ?あいつらの治療費だって、オレたちで出してやんなきゃならねーんだぜ」

悠「ああ、そうなのか」

サラシで巻いてあるとはいえ、それだけ放りだされていると嫌でも目が向いてしまう。いつも暴れる前に脱ぎたがるからな……。

朱金「ただでさえ人手不足なのに、こうあっちこっちで騒ぎを起こされちゃたまらねぇ」

悠「それは大変だな」

結構な大きさがあるのに、朱金は全然頓着しないし、まさか見つけて楽しんでるんじゃないだろうな。朱金の性格だったらあり得るぞ。
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