ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー校庭ー

越後屋「そんな……そんなアホなことがあってたまるかいな!ほんまもんの競走で馬が勝てるわけあらへんやろ!インチキや!イカサマや!」

歓声と怒声の坩堝(るつぼ)の中、ひと際高いヒステリックな声をあげたのは越後屋だった。

悠「そんなわけないだろ。越後屋もずっとみてたじゃないか」

越後屋「いや。いいや。勝負を持ちかけてきたんはそっちや。自信満々やったしおかしいと思ったんや!」

朱金「あんだおらぁ!負けたあとでグダグダいうんじゃねぇ往生際の悪い!」

想「賭場の世界は、イカサマは見抜かれなければ問題は無いのでしょう?勝負が決した後で異議を唱えるのはどうなのでしょうね。まぁ、徳田さんに不正ができるような技術がアレばですが」

越後屋「そんな言葉で納得でけまへんな。イカサマを働く不届き者には、制裁が必要や」

いつのまにか騒然としていた会場が静まり返っている。越後屋の手下は皆剣呑な空気を漂わせている。

悠「これはやっぱり、そういうことなのか?」

越後屋「みなさん、やっておしまいなさい!」

手下A「うおぉおおーー!」

手下B「この、卑怯ものがぁーっ!」

越後屋の手下のチンピラどもが、大挙して襲いかかってくる。しかし朱金はまったく動じた様子はなく、むしろ正面に歩み出て、仁王立ちになった。

朱金「ハッ!結局そうすんなら最初からしてろってんだ。春に咲くもの、冬に咲くもの、昼に咲くもの、夜に咲くもの、花はそれぞれいろいろだぁ……中には珍しい、悪党の前でしか開かねぇ花ってのもある。そいつがこの、遠山桜だっ!てめぇら如き細腕で、コイツが散らせるものかよ!!」

手下A「そんなもので怯むかよ!」

朱金「んじゃ怯むヒマもなくオネンネさせてやらぁ!」

手下A「ぐはっ!?」

襲いかかってきた男は、鋭い朱金の蹴りを受け、駆け寄ってきた勢いそのままにすっ飛んでいった。

朱金「オラオラ!どんどんかかってこいよ!」

ハナサカ『ワンワンワン!』

ハナサカの力で速さを増した朱金は、ひとりで次々に越後屋の手下を殴り倒していく。

吉音「もー!勝ったのに誰も褒めてくれない―!」

向こうの吉音も襲われているらしい。銀シャリ号から降りて刀を振り回している。ある意味一番頑張ったやつなのに災難だな。

想「今更必要ないとは思いますが、イオリ、待機している皆さんに一応連絡をお願いします」

イオリ『チュチュー!』

白衣を着たちいさなネズミ……アレが逢岡さんの剣魂か。イメージ通りに身体よりは頭ってタイプな感じだな。既に騒ぎを聞きつけ、多くの同心さんや岡っ引が捕縛を始めている。それでも一応指示を出したという体面を作っておくのも、奉行の仕事なんだろう。

手下B「このぉぉお!」

悠「っと、こっちも来たか!」

振りかぶってくる木刀を右に弾き、足を左に蹴り払ってやる。綺麗に脇腹から地面に倒れた奴は悲鳴もあげずに悶絶している。

チンピラC「うおぉぉ!俺もやるぜ!せっかくの配当金が!」

吉音「そんなの知らないよ!もー!もー!銀シャリ号もがんばったのにぃー!」

チンピラD「頑張らなかった方が儲かったんだよ!」

吉音「だから知らないってばー!」

可哀想になってきた。次のおやつは多めにしてやろうかな……。しかしこうなると無茶苦茶だな。町方と越後屋の手下と賭けに来ただけの博徒とが、入り乱れての大乱戦だ。敵の暴れてる奴だけで、あわせると百人は軽く超えているだろう。これを全部成敗するとなると相当な手間だぞ。早く越後屋を取り押さえないと。

はじめ「旦那をやるつもりなら、その前にボクが相手になるよ」

悠「くっ、佐東さんか……!」

まずい、ここで越後屋最強の用心棒がでてくるとは。朱金も吉音も大勢の敵に囲まれているし、逢岡さんじゃ、申し訳ないが太刀打ちできそうにない。

悠「やるしか……ないか。」

刀を抜いて斬りかかる。

はじめ「ぜんぜんダメだね。なってない」

おれの剣は、まるで予測されていたかのように、軽々と佐東さんに受け止められていた。こんな夜中なのに、なんて勘なんだ。この子は想像以上に強い……。

はじめ「いいや、違うね。キミがいつもよりさらに弱いんだ。」

悠「あー?」

はじめ「ボクには昼も夜も関係ない。戦うなら夜の方が有利なのさ。」

なるほど。納得させられてしまう。
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