ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー校庭ー

吉音「悠ー!想ちゃーん!金ちゃーん!見ててねーっ!」

吉音は馬上から手を振っている。気合は入ってるようだけど、余裕あるな。

越後屋「レース、開始!」

越後屋のこえとともに、コース脇の信号にランプが灯る。同時にライダーたちが高らかにアクセルをふかし始めた。信号の赤がひとつ、ふたつと灯って緊張が最高潮となり、最後の青が灯った瞬間に、それが爆発する。

吉音「いけーっ!銀シャリ号!」

アクシデントもなく、一発でレースが開始された。スタート直後の一瞬こそ吉音が前に出たが、すぐさまバイク集団がそれを追い越して前に出る。コースはまず、グラウンド内のサーキットを半周する。急な連続カーブで一気に吉音が距離を詰め、再度前へと躍り出た。

悠「おっ?思ったよりやれそうだな」

カーブを抜けると加速してくるバイクにまた追いつかれたが、ほぼ横並びの形で街へと飛び出していった。ここからはしばらくは、モニターに映る映像での観戦だ。案の定太い直線になっている大通りでは、吉音はぐんぐん離されていく。が、ひとつ通りを曲がって、狭く舗装もまともにされていない路地に入るなり、状況は一変する。数台が横並びになり、渋滞しているバイクたちの後ろから、吉音の銀シャリ号が迫っていく。

朱金「いいぞいいぞ!速さじゃさすがにかなわねぇが、機動力なら銀シャリの方が上だな!」

越後屋「なんでや……たかが馬やのに、なんでついてこられるんや?」

朱金「馬もバイクも単体じゃねぇ、そこに乗る奴が備わってこそ本当の強さが生まれるんだ!……ってな。へへへ、カッコいいだろう」

越後屋「1+1は2以外にはならへんねん。そんなアホらしい理屈が通るわけあるかいな」

悠「……」

朱金が興奮し、越後屋がおののいている間もレースは進行する。吉音と銀シャリは健闘しているものの、やはり少しずつ差を開けらていく。

越後屋「ほら見ぃや。最初から勝負はきまってるんや」

想「まぁまぁ、最後まで拝見いたしましょう」

バイクと馬は、大通りに戻って日本橋へとさしかかった。これを渡れば校舎はすぐだ。まず突っ込んだバイク集団は、段差にガタガタと車体を揺らし、大きな起伏で減速する。そこー後ろから吉音が突っ込んできて……

越後屋「なっ……なんやて……」

朱金「うおおおっ!すげぇぞ!」

驚愕せずにはいられない大ジャンプ。吉音の操る銀シャリ号は、橋の頂点から頂点へと飛び移った。実質低地部分のショートカットだ。前を行くバイク組との差がなくなり、もつれ合うような状態でゴール地点の校舎へと戻ってきた。エンジンと蹄の音をかき消すほに、ひと際高くなる歓声。

土煙をあげながら、吉音たちが戻ってきた! 吉音の順位は、二番か……もう少し!例の如く直線ではバイクが速い。後続にも追いつかれそうになる……がコーナーの連続では吉音の方が速い!まるで飛び跳ね、踊るようなステップで軽やかにクリアしていく。コーナーの出口で、ついに吉音が前に出た!残すは最後の直線のみ!

朱金「いいぞ!そのまま差し切れ!」

チンピラE「直線じゃあバイクの方が速い!もらったぜ!」

声援も大きくなり、熱気も最高潮へと達する。
誰かの言葉通り、一旦は前に出た吉音が、再度バイクに抜かれた。もうゴールは間近。ここで前に出られていては……

吉音「とらんじゃむ!!」

よくわからない掛け声とともに、吉音の足が馬腹を蹴った。これまでで初めての行為だ。銀シャリ号の四肢に更に力がみなぎり、筋肉が膨れ上がる。それはほんの一瞬のことだったけれど、まるでロケットで飛び出したかのような加速だった。バイクライダーの方も追いすがろうとするが、既にフルスロットル状態。速度は上がらない。瞬く間に終演が迫ってくる。

吉音「銀シャリ号の……勝ちだぁぁあああっ!!」

そしてそのままゴールラインを通過した。その差は僅かだったけれど、勝敗は明らかだった。馬の銀シャリ号に乗った吉音が、第一着である。
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