ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー大江戸学園:教室ー

想「しかし、ここで町方を呼び寄せれば結局あなた方はお縄になりますよ」

はじめ「……早速くるかい?」

越後屋「その時はこちらも全力で抵抗するさかい、簡単にはいくとは、思わんといてくださいな」

悠「む……」

越後屋「とまぁそんな物騒な話をする前に、一丁勝負といきまへんか?」

想「勝負?」

越後屋「このレースは、とてもたくさんのひとが楽しみにしております。いまさらそれをやめるゆうたら、みなさんの不満が爆発してしまうかもしれまへん。そやさかい、レースは予定通り始める。そこにウチとそちらの代表が賭ける。ウチが勝ったらこのまま続ける。あんさんらが勝ったらレースはしまいにするというのは、どないですか?」

朱金「乗ったぜ!」

悠「速すぎるだろ!バクチ好きなのは知ってるが!」

想「……町奉行に、賭博を持ちかけるのですか」

越後屋「殴り合うよりは平和的な解決とちゃいます?」

想「頭からそれを否定するつもりはありませんが、しかしフェアではありません。私たちの来訪を予期していたあなたなら、レースに細工することは造作もないでしょうからね」

越後屋「なんや、ウチがイカサマするといいますのん?」

想「可能性の話しです。そしてそれがある限り、決して五分にはなりえません」

越後屋「……どうしても刀で決着つけたいっちゅうわけかいな」

想「いえ、そこで徳田さんの出番です」

吉音「ほえっ!あたし!?」

気勢をそがれ、それまでポカンと話を聞いているだけだった吉音が頓狂な声をあげた。

想「徳田さん、銀シャリ号はバイクよりも速い。そうおっしゃっていましたね?」

吉音「あ……うん!絶対に負けないよ!」

想「ということです。バイクばかりのレースにかけるのではなく、こちらの徳田さんとの勝負としましょう」

越後屋「な……あ……アホか!動物が機械に勝てると思てるんか!」

吉音「勝てるよ!銀シャリ号は特別なんだから!」

確かに徳河の名馬だ、世界でも有数の名馬だろう。しかしバイク相手には……いや町の中を走るのであれば、いくらか勝機はあるのか?

想「負けるはずのない戦いから逃げるのですか?あなたにはデメリットなどないはずですが」

越後屋「くぅぅ……言うてくれるやないの……っ!」







ー校庭ー

チンピラC「お……おい、なんだあれ」

チンピラD「馬だな……スタートラインに並ぶぞ。まさか」

吉音が銀シャリ号でスタートを待つバイクの列に参加すると、さすがに会場にはどよめきが起こった。ライダーたちもぎょっとした様子で吉音を見上げるが、吉音はピンと背筋を伸ばし、威風堂々としたものだ。

越後屋「みなさん、お集まりいただいてありがとうございます」

そこに越後屋のアナウンスが入ると、場は一斉に静まり返った。

悠「……」

越後屋「非常に申し訳ないのですが、第一レースは内容を変更させていただきます。ご覧の通り出走者が……え~、一匹増えることとなりました」

そこでまた軽いざわめきが起こる。

悠「(そりゃそうだ、はっきりと一匹が追加とアナウンスしたし)」

つまり馬とバイクでの競争だ。困惑しない方が不思議になる。

越後屋「予定のライダーが勝利した場合は、そのままの配当。馬が勝利した場合は全額返金させていただきます。それでは皆さん、スタート位置についてください。」

半信半疑ながら、越後屋がいうならばといった感じでスタートラインに並んだ。吉音もその端に加わる。こうしてみると夜に白馬、ひと際高い姿は目立つな。

朱金「ンだよクソっ。銀シャリに賭けられねぇとかわけわかんね」

悠「……おれにはこんな状況でも賭けを成立させようとする越後屋がわけわからんよ。っか、こんなことしても意味があるんすか?アイツ負けても絶対因縁つけてきますよ」

想「引き下がってくれたらそれで良し。抵抗するなら、レースの結果如何に関わらず、実力行使するまでです」

朱金は見た目にわかりやすい奴だけど……怒らせたらより恐ろしいのは、逢岡さんの方かもしれない。
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