ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー越後屋本店ー

朱金「越後屋の連れている番犬か。与えられている餌は金か?」

???「……なんとでもどうぞ」

朱金「オレは別に引っ立てようと来たわけじゃあない。単に挨拶に来ただけだ。ちょうどいい、お前からも取り次いでくれないか」

???「会う約束のない人は通さない。それがボクの仕事だ。」

朱金「ただ話しをするだけで、他には何もしない。それでもか?」

???「……」

朱金「奉行の命令で仕方なく従った、といえば責められはしないだろう」

???「フン」

用心棒は朱金の言葉に耳を貸そうとせず、微動だにしない。無造作に突っ立っているだけに見えるが、纏っている空気は研ぎ澄まされ、近づいただけで切れそうだ。

朱金「これは困ったな。出来れば内々に収めたかったんだが……正式に申し入れをしてから出直すしかないか」

途端に受付(?)をしている女子の顔色が変わった。まぁそりゃそうだ。個人的な訪問ならまだしも、奉行が正式な申し入れとかいいだしたら誰だってビビる。

「まぁまぁそんな堅いこといわんと、別に話しするくらいええやないの」

???「旦那……」

越後屋「そんな風に身構えるから疑われるんやんか。もっと力抜きぃな」

店の奥から、まるではかったようなタイミングで越後屋がでて来た。いや実際にはかってたんだろうな。さすが機敏な大商人だけある。

朱金「やっとお出ましか。ひとまず、突然の訪問については陳謝する」

越後屋「そんなお気になさらず、ようこそおいでになりましたお奉行さま。この子は佐東はじめ言いますねん。ちょっと頑固やけど、剣の腕では誰にも負けまへんで」

朱金「ふん……随分と景気が良いみたいだな。そろそろ学園の半分くらいはお前のものになったか?」

越後屋「まさか。学園は十万人が住む町。そう簡単にはまいりませんわ」

朱金「それでも水面下では、手広く交渉を進めているんだろう?」

越後屋「それは商人ですからなぁ。誰よりも強欲な自覚はもっておりますし……ふふふ」

朱金「確かに。天狗党をお得意様に持つほどだからな」

越後屋「天狗党……」

朱金「んん?」

越後屋「……ああ~、あの天狗党ですか。なんやお粗末な連中でしたなぁ」

朱金「お前はあいつ等の支援をしてたんだろう?それがなければ、あの程度もやれなかったと思うが」

越後屋「人聞きの悪いことを言わんとってくださいな。ウチは欲しい、いわれたからものを売っただけですやん」

朱金「そのお陰で危うく城が爆破されそうになったんだが?」

越後屋「売れた後のものをどう使われようと、ウチらの知ったことではあらしまへんもん」

商人としての正論だな……さすがに図太いというか、なんというか。悪事に使うとは思わなかったと主張されると、それ以上踏み込むのは難しくなる。

朱金「やれやれ、さすがは百戦錬磨の越後屋だな。だが、あまりやりすぎないように注意することだ。今後も同じようなことが続けば、処罰とはいかずとも、規制という形で介入することになるかもしれない。そうなっては不利益以外のなんでも無いだろう?」

越後屋「ええ~、それはいわゆる脅しというヤツですかぁ?」

朱金「それはお前次第だが」

越後屋「うふ~ん……」

朱金「おお!?な、なんだっ?」

越後屋「そないないけずなこといわんといてくださいな……」

突然越後屋が、身をくねらせて朱金にしなだれかかった。
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