ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
まあ、団子さえ食わせとけば吉音は静かになる。それよりも今は……。
悠「っと、今更だけど、あの時は本当に助かった。ありがとうな」
笠の少女「……ですから、あれは剣魂を助けただけで、貴方を助けたわけではありません」
悠「うん、それは事実かもしれない。でもあんたのおかげでおれが助かったのも事実だ。ちがうかな?」
笠の少女「……変わった人ですね」
悠「自覚はないんだけどな」
笠の少女「ならば、礼はあの子に行ってください。あの子は、貴方を助けようとしてましたから」
カラス『クカー』
その鳴き声に振りかえると、道向こうの大樹の枝に、見覚えのあるカラスが羽根を休めてこちらを見ていた。
笠の少女「この子は頭が良いんです。ただ、お人好しなのが困りもので」
カラス『カアァ!カアアァ!』
悠「いやいや、そのおかげで助かった。ありがとうな……あ、えーと、名前なんて言うのかな」
名前が分からないと声もかけにくい。そう思って笠の少女に尋ねてみたんだが……。カラスが目のまえの机に舞い降りた、足に握っていたスケッチブックの上に、くちばしで挟んだペンを器用に滑らせた。
そこには、『ジロウと言います。以後、お見知りおきを』と、意外なほどの達筆で記されていた。
悠「へぇ……頭が良いだけじゃなくて、字もかけるんだ。すごいなぁ」
笠の少女「作った人の才が伺えますよね」
悠「ああ、見事のひと言だ。……おれは小鳥遊悠で、あっちで団子食ってるのが徳田新。よろしくな、ジロウ」
ジロウ『クカカー』
悠「で、あんたの名前は?」
笠の少女「名乗るほどの物ではありませんから」
悠「つれないご主人様だな、ジロウ」
ジロウ『クカカァークカァー』
悠「じゃあ、ジロウが教えてくれないか?あの子の名前」
ジロウ『クカーカカッ』
笠の少女「ちょ……なにをしてるんですか、ジロウ」
ジロウ『クカァークカァー』
ジロウが再びペンを走らせるや否や、彼女が慌てて飛び付いた。ただし団子は握ったままで。
ジロウ『カァーカァー』
しかし、反応が遅かったのか、団子を握ったままが悪かったのか。紙一重のところでジロウは飛びあがる。
笠の少女「ジロウ!降りて来なさい!」
ジロウ『クァカァクァカァー』
ご主人の声に聞く耳を持たず、おれと彼女の頭上をぐるりと回る。広くない店内で、器用なもんだ。
笠の少女「……ああもう!いいです!」
あくまで戯れ続けるジロウに、彼の主人は最後通知のように強く言い放った。その後彼女が取った対抗策は、ある意味意外な物だった。
悠「ん?」
文「文、です!文!五十嵐文(いがらしあや)!五十の嵐が届ける文です!」
確かにこの状況を打破するには、名前を告げるというのは正しい打開策……だと思う。思うんだけど、そもそも名前を言いたくなかったはずじゃ……?本末転倒というべきか、肉を切らせて骨を断つなのか。それにしても、漢字の書き方まで教えてくれるなんて、案外気配りの細かい子なんだな。
悠「ものすごく壮大なイメージが膨らむな、その説明は」
文「こ、これで御満足ですか?それともまだ聞きたいことが!?」
悠「いやいや、名前はもう十分。ありがとう、よく分かったよ」
文「…………はぁーっ。あまり人に名前を教えるつもりはなかったのに……しかもフルネームなんて……」
悠「あ、そうだったのか……悪い、無理に聞きだしちゃったな」
文「いえ、いいんです。ただの心がけに過ぎませんから、お気遣いは無用です」
悠「でも、無理させちゃったんだろ?」
文「無理というほどでもありませんが……そうですね、気がすまないというのであれば、手が考えましょう」
……手を考える?文の心がけの問題なのに、それでどうにかなるのか?
まあ、団子さえ食わせとけば吉音は静かになる。それよりも今は……。
悠「っと、今更だけど、あの時は本当に助かった。ありがとうな」
笠の少女「……ですから、あれは剣魂を助けただけで、貴方を助けたわけではありません」
悠「うん、それは事実かもしれない。でもあんたのおかげでおれが助かったのも事実だ。ちがうかな?」
笠の少女「……変わった人ですね」
悠「自覚はないんだけどな」
笠の少女「ならば、礼はあの子に行ってください。あの子は、貴方を助けようとしてましたから」
カラス『クカー』
その鳴き声に振りかえると、道向こうの大樹の枝に、見覚えのあるカラスが羽根を休めてこちらを見ていた。
笠の少女「この子は頭が良いんです。ただ、お人好しなのが困りもので」
カラス『カアァ!カアアァ!』
悠「いやいや、そのおかげで助かった。ありがとうな……あ、えーと、名前なんて言うのかな」
名前が分からないと声もかけにくい。そう思って笠の少女に尋ねてみたんだが……。カラスが目のまえの机に舞い降りた、足に握っていたスケッチブックの上に、くちばしで挟んだペンを器用に滑らせた。
そこには、『ジロウと言います。以後、お見知りおきを』と、意外なほどの達筆で記されていた。
悠「へぇ……頭が良いだけじゃなくて、字もかけるんだ。すごいなぁ」
笠の少女「作った人の才が伺えますよね」
悠「ああ、見事のひと言だ。……おれは小鳥遊悠で、あっちで団子食ってるのが徳田新。よろしくな、ジロウ」
ジロウ『クカカー』
悠「で、あんたの名前は?」
笠の少女「名乗るほどの物ではありませんから」
悠「つれないご主人様だな、ジロウ」
ジロウ『クカカァークカァー』
悠「じゃあ、ジロウが教えてくれないか?あの子の名前」
ジロウ『クカーカカッ』
笠の少女「ちょ……なにをしてるんですか、ジロウ」
ジロウ『クカァークカァー』
ジロウが再びペンを走らせるや否や、彼女が慌てて飛び付いた。ただし団子は握ったままで。
ジロウ『カァーカァー』
しかし、反応が遅かったのか、団子を握ったままが悪かったのか。紙一重のところでジロウは飛びあがる。
笠の少女「ジロウ!降りて来なさい!」
ジロウ『クァカァクァカァー』
ご主人の声に聞く耳を持たず、おれと彼女の頭上をぐるりと回る。広くない店内で、器用なもんだ。
笠の少女「……ああもう!いいです!」
あくまで戯れ続けるジロウに、彼の主人は最後通知のように強く言い放った。その後彼女が取った対抗策は、ある意味意外な物だった。
悠「ん?」
文「文、です!文!五十嵐文(いがらしあや)!五十の嵐が届ける文です!」
確かにこの状況を打破するには、名前を告げるというのは正しい打開策……だと思う。思うんだけど、そもそも名前を言いたくなかったはずじゃ……?本末転倒というべきか、肉を切らせて骨を断つなのか。それにしても、漢字の書き方まで教えてくれるなんて、案外気配りの細かい子なんだな。
悠「ものすごく壮大なイメージが膨らむな、その説明は」
文「こ、これで御満足ですか?それともまだ聞きたいことが!?」
悠「いやいや、名前はもう十分。ありがとう、よく分かったよ」
文「…………はぁーっ。あまり人に名前を教えるつもりはなかったのに……しかもフルネームなんて……」
悠「あ、そうだったのか……悪い、無理に聞きだしちゃったな」
文「いえ、いいんです。ただの心がけに過ぎませんから、お気遣いは無用です」
悠「でも、無理させちゃったんだろ?」
文「無理というほどでもありませんが……そうですね、気がすまないというのであれば、手が考えましょう」
……手を考える?文の心がけの問題なのに、それでどうにかなるのか?