ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

笠の少女「では、説明は済みましたのでこれで失礼します。暇はない身なので。」

悠「それじゃなんのために来てもらったのか分からない。お礼のひとつくらいさせてもらえないか?」

笠の少女「……私の剣魂を助けるためです。つまり私の事情ですから、お気遣いなく。」

悠「ならせめて、茶や団子くらい……」

笠の少女「団子などいりません。そこの彼女にでもさしあげて……」

ぐぎゅぅ~

悠「あっ」

笠の少女「…………ど、どこかでサイレンでも鳴っているようですね」

悠「あ、あー……そーみたいだな」

それが何の音か、誰が出した音なのか。答えを追求するのは酷だろう。真実は時に人を傷つけ、嘘は人を癒す。

笠の少女「……」

悠「っで、貴女を呼んでいるサイレンでなければ、少しばかり時間をくれないか?そうだな……団子はお礼じゃなくて迷惑料と思って欲しい。ここまで無理につれてきてしまったお詫びだ」

笠の少女「べ、別にそういう事でしたら、あまり無下にするのも失礼という物ですし、貴方の気がそれで済むというのなら…」

悠「そういってくれると助かる。あ、団子じゃなくて田楽とかの方がいいか?何がいい?」

笠の少女「い、いえ、お団子だけで結構です。というか、田楽だけはお断りします。」

悠「ん、そうか……分かった。じゃあ今持ってくるから、待っててくれ。」

笠の少女「急がず、慌てず、ゆっくりでいいですから」

ぐきゅ~

悠「……」

笠の少女「いえその、今のこれは……あの……」

精一杯の気遣いは嬉しいが、そんな可愛い催促をされたら、急がないわけにはいかないな。ふふふ。


~団子準備中~

悠「……」

笠の少女「……んぐ…むぐぐ……もぐもぐ………ごっくごく……ぷはっ……んぐぐぐっ」

時折お茶を挟みつつ懸命に団子をほおばる姿は、どこか小動物を思わせて微笑ましい。
あっぱれとしかいえない勢いで団子をたいらげては皿を積み上げる。たまに喉を詰まらせるが、お茶で流し込んではまた団子に手を伸ばした。なんというか……怯まない子だ。それはそれで、いいことだ。少しでもお礼が出来て、おれも満足だし。だが……。

吉音「もぐもぐ……もぐもぐ……」

悠「いつまで食べ続けるんじゃいお前は!」

吉音は、その少女が食べ始める前からすでに団子を貪っており、そのペースは今になっても衰えない。結果二人の机の前には、まるで競うかのように皿が積み上げられている。

吉音「ほえ……」

おれの表情に気づいた吉音がなにか喋ったが、団子まみれの口からどんな言葉がでたかは聞き取れなかった。

悠「飲みこんでから喋れ。そしていい加減、言うべきセリフがあるだろ?」

吉音「おかわりっ!!」

悠「そっちかよ!」

そろそろ「ごちそうさま」か、せめて「いっぱい食べてごめんね」とかじゃないのか、普通は……はあぁぁ。

笠の少女「す、すみません、もうやめておきます……」

悠「あー、ちゃうちゃう。そっちにいったんじゃないからな!これは迷惑料なんだから、アンタは全然構わないんだ。」

吉音「あたしだって、これは用心棒の報酬なのにぃ~」

悠「お前は、うちの用心棒だろうが。店を傾けてどうする」

吉音「傾けきっちゃえば、一回転して元通りじゃない?」

悠「じゃないわーっ!」

むしろ発想の方が一回転してる吉音に、しかし結局団子の皿を差し出してしまうおれは……店主失格かな。はあぁぁ。
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