ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー大江戸学園停留所ー

見回りに励む吉音のおかげか、今日の世もまこと泰平であった。

吉音「うぅ、見回りはお腹が減るなぁ……。でも、小鳥遊堂まであと少し。愛しの団子までもうちょっと……。」

吉音の食欲を除いて、の話しかも知れないが。

笠の少女「……」

吉音「おおー、三度笠なんて珍しい。……あれ、笠のことで悠がなにか言ってたような……。確か、あたしの留守中、笠をかぶった子に…………なまけられた?」

暗記が苦手な彼女にしては、実に惜しかったといえるかもしれない。

笠の少女「………」

吉音「いやいや、違うよね。……忘れられた?」

むしろ吉音が忘れてる側だ。

笠の少女「…………」

吉音「!そうそう、助けられだ!あたしが留守してたせいで、迷惑かけちゃったんだもんねあの笠の子には、ぜひお礼を言わなくっちゃッ!」

笠の少女という共通点だけで件の彼女だと断言するのは、あまりに単純すぎるといえた。しかしそれが、時として正しい結論へと至ることもある。今がまさにその瞬間だった。

笠の少女「……………」

吉音「もしも~し、そこの笠子さ~ん!」

だが判断こそよかったが、いかんせん遅かったのだ。吉音が延々悩んでいた間も笠の少女は歩きつづけており、その後ろ姿は米粒ほどになっていた。

笠の少女「………………」

吉音「あああ、しまった……もう、声届かないかな。急いで追いかけないと!!」







ー廃寺ー

笠の少女「ふぅ…」

吉音「いたいた、よかった~!ごめんね銀シャリ号、ちょ~っとここで待ってて。さ~てと、そこのお嬢さ……んがいないっ!?あ、あれ……さっきまでそこにいよね……?お寺の中に入っちゃったのかな……もしくは、お墓に」

吉音が銀シャリ号に話しかけていた刹那の間に、どこに消えたか笠少女の姿は影も形もなくなっていた。それにしても大胆過ぎる推理である。

「……」

吉音「まあ、どつちも調べればわかることよね。というわけで、た~の~も~!」

吉音の投げかけに、はたして返答は無く、しかし返事はあった。返事はヒュッと鋭く短い切り裂き音と、吉音の拘束という形によって行われた。前触れも無く飛来した竹楊枝は吉音の袖を木の幹に縫いつけ、彼女の自由を奪う。

笠の少女「……誰ですか貴女は」

吉音「人に名前を尋ねるときは、まず自分からっ!!」

ピンチに陥りつつもそんな言葉が飛び出るあたり、実に吉音らしいといえた。

笠の少女「のんきなことを……おかしな動きをしたのはそちらですよ。どうして、私の後をつけてきたんですか?」

吉音「うんうん、お話しならちゃんとするよ。だから、まずお顔を見せて欲しいなぁ~」

笠の少女「……まぁ、いいでしょう。しかし、私の機嫌を損ねるような真似をすれば、ただではおきませんから」

吉音「ただより高いものはないもんね~♪」

笠の少女「……と、とにかく今行きます。」

吉音「やっほ~初めましてこんにちは~」

笠の少女「怪しい動きをしたら容赦しませんので、貴女の腕前が如何ほどなのかまでは存じませんが、片腕を封じられている事実はお忘れなく」

吉音「あ……そういえば、そうだっけ。あはは」

笠の少女「お忘れなく」

吉音「はーいはい、んでね、どうしてあたしが追いかけてきたのかというと……」

笠の少女「あ……ああっ!」

吉音「ええと、ちょっと前の事なんだけど……どのくらい前だっけなぁ。おとといでもなく……あたしじゃないんだけど、いやあたしも関係はあるんだけど、悠っていう人があなたに……」

笠の少女「……前言は撤回します」

吉音「ほへ?前言?なになに?」

笠の少女「私の機嫌を損ねずとも……もう、ただで済ます気はありません!」

少女の刀が、前触れも無く刹那の呼吸で迸った。
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