ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「……」

結花「小鳥遊君?」

悠「あ、はい」

結花「もしかして、私に見惚れてる?」

悠「……まあ、そんなところです」

結花さんはなぜか驚いたような顔をする。どうしたのかと思って見ていると、なにやら困ったように視線をさ迷わせ……。
だけどすぐ笑顔に戻ると、おれへと向き直った。

結花「ねぇ。小鳥遊君の好みのタイプってどういう女の子?」

悠「な……なんですいきなり?」

結花「参考までに聞いておこうと思って」

悠「参考ってなんのです?!」

結花「いいじゃない。ねぇ、教えて。どういう女の子が好みなの?」

悠「えーと……考えたことがない……っか、どんな女性も魅力的だといいますか…」

結花「ふーん。じゃあ例えばお姉さんぽい女の子とかはどう思う?」

悠「それは……えーと……。」

結花「えーと?」

返事をしようにも、考えがまとまらない。結花さんの顔が近くにあり過ぎて、緊張しまくっているせいだ。吐息すら感じられるほど間近から、まばたきすらせずに見つめてくる結花さん。おれがちょっとでも変な気を起こせば、簡単にキスでもできてしまいそうなほど近くて……。

由真「なにやってんの?」

悠「へ?」

冷やかな声に驚いて、おれは我に返った。そして声のした方を見ると、由真が冷たい眼差しをこちらに向けていた。

由真「アンタなに気持ち悪顔して結花姉見つめてる訳?」

悠「き、気持ち悪いって……」

由真「なんか興奮してるみたいに目ぇ見開いて、鼻の下伸ばしちゃってさ、気持ち悪ぅ」

悠「ぐっ」

実際、そんな顔していたことを否定できず、なんとも言い返しづらい。

唯「なに由真姉。悠さんが結花姉に見惚れてたからやきもち?」

由真「はぁ!?なんでわたしがヤキモチなんて焼かなくちゃいけないのよ!」

唯「だって悠さんが結花姉と話してるのみたら、ボクのことほったらかして飛んで来たじゃん?」

由真「平気な顔して嘘つくな!アンタがこっちに来たから私もついて来たんでしょうが!」

結花「こぉら、いい加減になさい。ご近所迷惑よ。ケンカをするなとはいわないけど、せめて家のなかでになさい」

さすがに見かねたらしく、結花さんがあきれたように苦笑を浮かべて口を挟んだ。

由真「は~い」

唯「は~い」

にこにこ笑って返事をする唯ちゃんとは対照的に、由真は見るからに不貞腐れていた。
そのことにツッコミを入れれば、また文句をいわれるハメになるんだろうから、黙っておくことにする。

結花「じゃあ小鳥遊くん、おやすみなさい。騒がしくして本当にごめんなさいね。」

悠「あ……いえ」

唯「悠さん、おやすみ~」

由真「ふんっ」

そうして三人はねずみやへともどっていった。とたんに辺りは静けさに包まれる。
姦しいといってはなんだが、あの三姉妹の存在感はすさまじいな。

悠「あー……」

ふと振り返ってみると思いだした。まだ片づけの途中だった……。もういっそのこと、そのままにして帰ってしまおうかと思ったが万が一のこともある。仕方なく気合を入れ直してとっとと片づけを済ませて帰ることにした。
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