ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
唯「今日さ、うちは定時で終わったんだけど、悠さんのお店、まだやってたでしょ?だから由真姉、お店の片づけしながら、ちらちら悠さんの方を気にしてたの。でね、そんなに気になるなら手伝いにでもいってきたら?って、ボクがいったらこうなっちゃったわけ」
由真「唯!アンタいいかげんにしなさいよ!!」
とうとう由真の指先が身体に届きそうになった時、唯ちゃんはおれから離れて広い通りの方へと逃げだした。
唯「ほんと素直じゃないんだから、由真姉は」
由真「うっさい!」
悠「……」
通りの真ん中で繰り広げられる追いかけっこを呆然と眺める。細やかなフェイントや素早い方向転換。その動き自体は高度ではあるのだが、やってることは追いかけっこなので、なんとも間抜けというか……。
結花「ごめんなさいね、騒がしくて」
悠「あ……結花さん」
いつのまにか隣にやってきていた結花さんが、にっこりとおれに笑いかけてくる。
結花「お店……大丈夫?」
悠「あー、はい、もう閉めるところでしたし」
結花「手伝いましょうか?」
悠「いや、それには及ばない……っか、たいしてやることないんっすよ。それより、あのふたりを放っておいていいんですか?」
結花「心配いらないわ。仲良くじゃれあってるみたいなものだから」
悠「仲良く……」
そんなふうには見えないが、結花さんがいうなら、きっとそういう事なんだろう。
結花「ふたりとも、いいたいことを黙っていられないタチだから、たまにこういうことがあるのよ。女の子なんだから、もう少し慎みを持ってもらいたいところなんだけどね。」
困ったような口調だが、ふたりを見つめる結花さんの眼差しは優しく感じられた。おれがその横顔をまじまじ見つめていると、不意に結花さんの視線がこちらを向く。
悠「……」
結花「あら、なぁに?私の顔になにかついてる?」
悠「いえ、そうじゃなくて……なんだか結花さんて、あのふたりのお母さんみたいだな、と思って」
結花「え?」
悠「え?」
結花さんがキョトンと首をかしげ、そのまま固まってしまった。なにか変なことをいってしまっただろうか?そんなふうにおれが戸惑っていると、結花さんが不満そうにむくれる。
結花「それって、私の見た目が老けてるって事かしら?」
悠「いや、そうじゃなくて!」
結花「同い年なのに、ひどいわね」
悠「だから、そうじゃなくて……その……」
弁解の言葉を探すが、慌ててしまって頭が回らない。だが、そんなおれを睨むように見つめていた結花さんが、急にクスッと笑い声を洩らした。
結花「冗談よ、小鳥遊君のいいたいことは、なんとなくわかるわ。私は長女だから。あの子たちを見守ってあげなきゃっていう気持ちが、いつも心のどこかにあるの。だからそういう意味じゃ母親みたいっていうのは間違いじゃないと思う」
そういって微笑む結花さんは、どこか誇らしげだった。さっきとは違う理由で、またおれは結花さんの顔を見つめてしまう。すると、それに気づいた結花さんが、意味ありげな笑みを浮かべた。
結花「今度はなぁに?」
悠「は……はい?」
声が上ずってしまったのは、結花さんがいきなり身体を近づけてきたからだ。
結花「そんなにじっと見つめられたら恥ずかしいじゃない」
悠「いや、その……すみません」
結花「謝らなくてもいいわよ。それより、どうして私を見つめていたの?」
悠「ええと……それは……」
結花「それは?」
結花さんはうわ目づかいをして、間近からおれの顔を覗きこんでくる。あまりの近さに緊張してしまいながら、不意に、まったく違う関係ないことが頭に浮かんだ。結花さんて意外と小さいんだな、と。大人びた雰囲気を感じる結花さんだがこうして並ぶと、やっぱりおれより小さいわけで……。
唯「今日さ、うちは定時で終わったんだけど、悠さんのお店、まだやってたでしょ?だから由真姉、お店の片づけしながら、ちらちら悠さんの方を気にしてたの。でね、そんなに気になるなら手伝いにでもいってきたら?って、ボクがいったらこうなっちゃったわけ」
由真「唯!アンタいいかげんにしなさいよ!!」
とうとう由真の指先が身体に届きそうになった時、唯ちゃんはおれから離れて広い通りの方へと逃げだした。
唯「ほんと素直じゃないんだから、由真姉は」
由真「うっさい!」
悠「……」
通りの真ん中で繰り広げられる追いかけっこを呆然と眺める。細やかなフェイントや素早い方向転換。その動き自体は高度ではあるのだが、やってることは追いかけっこなので、なんとも間抜けというか……。
結花「ごめんなさいね、騒がしくて」
悠「あ……結花さん」
いつのまにか隣にやってきていた結花さんが、にっこりとおれに笑いかけてくる。
結花「お店……大丈夫?」
悠「あー、はい、もう閉めるところでしたし」
結花「手伝いましょうか?」
悠「いや、それには及ばない……っか、たいしてやることないんっすよ。それより、あのふたりを放っておいていいんですか?」
結花「心配いらないわ。仲良くじゃれあってるみたいなものだから」
悠「仲良く……」
そんなふうには見えないが、結花さんがいうなら、きっとそういう事なんだろう。
結花「ふたりとも、いいたいことを黙っていられないタチだから、たまにこういうことがあるのよ。女の子なんだから、もう少し慎みを持ってもらいたいところなんだけどね。」
困ったような口調だが、ふたりを見つめる結花さんの眼差しは優しく感じられた。おれがその横顔をまじまじ見つめていると、不意に結花さんの視線がこちらを向く。
悠「……」
結花「あら、なぁに?私の顔になにかついてる?」
悠「いえ、そうじゃなくて……なんだか結花さんて、あのふたりのお母さんみたいだな、と思って」
結花「え?」
悠「え?」
結花さんがキョトンと首をかしげ、そのまま固まってしまった。なにか変なことをいってしまっただろうか?そんなふうにおれが戸惑っていると、結花さんが不満そうにむくれる。
結花「それって、私の見た目が老けてるって事かしら?」
悠「いや、そうじゃなくて!」
結花「同い年なのに、ひどいわね」
悠「だから、そうじゃなくて……その……」
弁解の言葉を探すが、慌ててしまって頭が回らない。だが、そんなおれを睨むように見つめていた結花さんが、急にクスッと笑い声を洩らした。
結花「冗談よ、小鳥遊君のいいたいことは、なんとなくわかるわ。私は長女だから。あの子たちを見守ってあげなきゃっていう気持ちが、いつも心のどこかにあるの。だからそういう意味じゃ母親みたいっていうのは間違いじゃないと思う」
そういって微笑む結花さんは、どこか誇らしげだった。さっきとは違う理由で、またおれは結花さんの顔を見つめてしまう。すると、それに気づいた結花さんが、意味ありげな笑みを浮かべた。
結花「今度はなぁに?」
悠「は……はい?」
声が上ずってしまったのは、結花さんがいきなり身体を近づけてきたからだ。
結花「そんなにじっと見つめられたら恥ずかしいじゃない」
悠「いや、その……すみません」
結花「謝らなくてもいいわよ。それより、どうして私を見つめていたの?」
悠「ええと……それは……」
結花「それは?」
結花さんはうわ目づかいをして、間近からおれの顔を覗きこんでくる。あまりの近さに緊張してしまいながら、不意に、まったく違う関係ないことが頭に浮かんだ。結花さんて意外と小さいんだな、と。大人びた雰囲気を感じる結花さんだがこうして並ぶと、やっぱりおれより小さいわけで……。