ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「はい、お茶と小鳥遊盛り、おまちどうさま……」

伊都「……あら」

おれは戦々恐々としながら、大神の前にお茶と和菓子盛り合わせを差し出した。さて、大丈夫だろうか……味には自信があるが、コイツのことだ、どんな難癖をつけてくるか……。固唾をのんで見守るおれの前で、大神は団子をひとつ口に入れる……。

伊都「ふーん……。うん、なかなか、美味しいじゃない」

悠「……ふー」

どうやら口にあってくれたらしい。これで身体で責任をとる必要はない……。

伊都「ところで、ねぇ、このお茶ですけれど……」

悠「それがなにか?」

菓子が及第点とわかったら、今度はお茶の方に難癖つける気か?

伊都「お茶って確かに緑色ですわね……」

悠「は?」

吉音「へ?」

きょとんとしているおれ達をしり目に、大神は茶碗の中をじっとのぞきこんでいる。

伊都「だから緑茶って呼ぶのは正しいわ。でもどうして、ミルクティーまで、紅茶なんていうのかしら。元紅茶、と呼ぶのが、正しいんじゃなくて?」

悠「は、はぁ……」

ダメだこりゃ、ついてけない。

吉音「ん~~~、確かに……そうだよね。なんでだろ?」

ってそこ、真剣に悩むんじゃないよ。

伊都「ごちそうさまでした。」

気がつくと大神はお茶もお菓子もきれいに平らげていた。

悠「どうも」

伊都「なかなかに、おいしかったですわ。及第点といったところかしら。」

そういって立ち上がりざまにおれの腕の辺りを掴んで引っ張った。不意なことに身を屈めると頭をくしゃくしゃと撫でていった。

悠「……なっ!!」

伊都「うふふふっ、また来ますわ。じゃあね」

そうして大神は、来た時と同じように上機嫌で去っていった……。

吉音「あーーっ、悠ずるい!あたしもなでなでして欲しかったぁ~~!!」

悠「はぁ……」

なんてこった……どうやら気にいられちまったらしい。あの変人……また来るのか……。



~数時間後~



由真「待てっつってんでしょうが、コラ!!」

悠「あー?」

そんな叫び声が聞こえてきたのは、吉音を送りだして、店の片づけを始めたころだった。声の主は確かめるまでもなく由真だろう。なにごとかと思ってねずみやの方を見てみると、こっちに向かって走ってくる人影が二つ。

唯「そんなに怒ることないじゃん」

由真「アンタが変なこというのが悪いんでしょうが!!」

怒鳴る由真に迫いかけられて、唯ちゃんが逃げている。もっともその顔はニコニコと笑っていて、必死な様子は微塵もないのだが。やがて店の前までやってきた唯ちゃんは、身を隠すように、くるりとおれの背後へと回り込んだ。

唯「助けて悠さん。由真姉がいじめるの」

由真「誰もイジメテなんてないでしょ!」

唯「ほらね?」

由真「アンタはそうやっていつもいつも……」

悠「まぁ、落ち着けって。なにがあったんだよ?」

由真「なにって……」

唯「それがね、由真姉ってば悠さんのこと気にしてるくせに、素直に認めないんだよ」

悠「は?」

由真「ちょっと唯!」

声を張り上げた由真が、おれの横に回り込んで唯ちゃんに掴みかかろうとした。だけど唯ちゃんは反対側に回って、由真の手をあつさりと避ける。
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