ｰ新宿:茶屋小鳥遊堂ｰ

悠「……っで、ご注文はお茶と、なにかお茶菓子は?」

伊都「んーっと、そうねぇ。それじゃ、ねずみサンデーひとつ。」

悠「はいはい、ねずみサンデー……って、それは隣のねずみやのメニューだよ!!」

伊都「ええ、存じてますけど、なにか?」

悠「残念ながら、ここは小鳥遊堂です。ねずみサンデーは置いておりません、さっさとおひきとりを!」

伊都「あら、置いていなければ、お隣で買ってくればいいのに」

悠「……あー?」

伊都「お客のどんなニーズにも応える。これこそ、客商売の基本じゃありませんの?常識ですわ。」

悠「なぜだろう。どちらかといえば非常識なやれも、アナタに常識をとかれると、何だか無性に腹が立つんですが……」

静かに拳を固めていると、大神はわるびれもせずに微笑んだ。

伊都「あのね、本当は私、ねずみやにいきたかったんですの」

悠「だぁーったら、最初からあっちに行きゃあいいでしょーが!」

伊都「だーって、あっちはお客がいっぱいで、うるさかったから……ねぇ、ダイちゃん」

ダイゴロー『チャーン』

悠「くっ……どうせうちはガラガラで、空席だらけですよ……」

伊都「あら、自己卑下は美しくありませんわ。それはむしろ甘えっていわれること、ご存知?」

……落ち着け、落ち着くんだ小鳥遊悠……このひとのペースに乗せられるんじゃない。

悠「とにかく、うちでお茶飲むなら、せめてうちの菓子を食べてもらおうか!!」

伊都「えぇ～～～……」

悠「何ですか、おれがいかにも理不尽なことをいってるーみたいな、その表情は!!」

伊都「仕方ありませんわ……じゃあこの、小鳥遊堂盛りをひとつ」

悠「はい、盛り合わせひとつ、毎度あり」

伊都「いっておきますが、不味かったらお代ははらいませんわよ」

悠「え……えっ?」

伊都「むしろあなたの身体で、返してもらおうかしら……?ふふふっ」

悠「それはどう言う意味ですか」

吉音「ちょっとちょっと、なんの騒ぎ?」

悠「ああ、新、いいところに……」

騒ぎを聞きつけたのか、店の奥から吉音がでてきた。こうなったら、吉音に大神を叩きだしてもらうしか……。

吉音「ああぁっ!こ、このお客さん……!」

悠「えっ?」

もしかして……悪名高い大神のことだ、すでに吉音も知っていた、とか?

吉音「かぁわぁいいぃぃ～～～～、なに、この着物～～!」

悠「……あー?」

見る見る、相好を崩す吉音に、大神もまんざらでもなさそうに微笑む。

伊都「あら、このセンスが理解できるとは……あなたもなかなかの洒落ものですわね」

吉音「だってこの傘も着物も、すっごいおしゃれだよ。これ、一点もの?」

伊都「えぇ。さる一流ブランドの、特注品ですわ」

吉音「いいなぁ～～、それ、ぜったい可愛いよ」

伊都「ふふふっ、そういうあなたこそ、その絶対領域とむっちりした太ももが、たまらなくイかしてますわ」

吉音「うわーーい、褒められた、うれしーーー!!」

悠「はぁ……」

こりゃダメだ。何だか知らないが、完全に意気投合してるよ……。おれは諦めて、お茶とお菓子を用意するために、いったん奥へと引っ込んだ。