ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

越後屋「お邪魔させてもらいますえ」

そういって店に入ってきた派手ななりの女は越後屋山吹。値踏みするようにぐるりと店内を見回している。

はな「いらっしゃいませです」

悠「どうも、どこでも好きな所に座ってくれ。」

越後屋「相変わらずなんの工夫も無い店ですなぁ~」

ひとりごとで言えば良さそうな感想をしっかり聞こえるように言い放つ所がなんとも越後屋らしい。

悠「聞こえてるぞ」

越後屋「当たり前や。聞こえるように言わんかったら意味があらへん」

確認するまでも無かったが、やはり嫌味な奴だ。ふてぶてしいというか、なんというか……。

悠「っで、何にするんだ?注文は?」

越後屋「ちょっと小鳥遊さん向きの用事がありましたさかい。寄らせてもらいましたんえ」

悠「あー?おれ向きの用事だ?」

越後屋「そや。どうせひまやろうから、声を掛けに来たんや」

本当に遠慮という言葉を知らない奴だ。っだが、実際店が忙しいとは言い難い。

はな「悠さん、この人がいると余計アレですから……」

悠「そうだな……。」

越後屋「ほーっほっほっほ。さほど長くはかからへん。さ、行くで」

勝手に結論を出して店を出て行こうとする越後屋を仕方なく追いかける。

悠「はなちゃん、店番よろしく。なんかあったら新叩き起こしてくれていいか」

越後屋「こんな辛気臭い店に盗人も来んやろ」

悠「辛気臭くて悪かったな!」

越後屋「ほら、行きますえ。」







ー大江戸学園商店街ー

悠「っで、今日はなんの用事なんだよ。厄介事じゃないだろうな?面倒はノーサンキューだぞ」

越後屋「口ぶりだけは一人前やなぁ。今日の用は小鳥遊さん向きのお仕事とお話したはずや」

悠「そう言えばそんなこといってたな。っで、おれ向きの仕事って?」

越後屋「ふふふ」

悠「なんだよ……。っか、話さないなら帰るぞ。」

越後屋「いい歳した大の男が細かい事をぐちぐち言いなはんな。せっかくの男前が台無しやで」

悠「あー?」

まったく、からかわれてるんだかなんだか、どうももやもやする。理由も告げられずに連れ回されるのは苦手だ。おれの経験上、崇とかにそうやって連れ回されるとろくなことがない。

越後屋「それにもう着いたわ。ここやで」

とある店の前で止まるとそこは呉服屋。越後屋に続いておれも店内に入る。





ー呉服屋ー

悠「……」

越後屋「今日はボチボチやな」

呉服屋店員「これはこれは越後屋様!ようこそお越しくださいました。」

越後屋「ごめんやす」

越後屋の姿を確かめた店員がすっとんできて大仰な挨拶をはじめた。なるほど、どうやらそれなりに常連らしいな。もっとも、越後屋を知らない商売人のほうがこの大江戸学園では珍しいのかも知れないが。

呉服屋店員「今日はどのようなお召し物をお求めでしょうか?先日入荷いたしましたこちらの京織物など、是非越後屋様にご覧いただければお気に入りいただけるかと……」

周りをちょろちょろしながら熱心に商品を進める店員を尻目に越後屋は店内の商品を手に取り始めた。

越後屋「てきとうに見てまわるさかい、おおきに」

うるさいとでも言うように目を細めて店員に笑いかける越後屋。うーん、意外と迫力あるな。


呉服屋店員「これは失礼いたしました。ごゆっくりご覧くださいませ。」

店員は後ずさりして店内にきえていった。
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