ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー大江戸学園:日本橋界隈ー

悠「佐藤さん……もとい、砂糖は買った、割れた湯飲みも補充できた、あとは……茶葉も買っとくか」

買い忘れないように口に出して確認する。傍から見たらひとりでブツブツいってる怪しい奴だが背に腹はかえられん。おれは、二度手間が嫌いなのだ。もっと、大手にでもなれば店まで直接配達してくれるんだろうけど、まぁ……いったい、いつの日の事やら。

涙で明日も見えないぜ……っと、幸いまだはっきりと見える欄干からほど近い場所に、なにやら見覚えのある人影を見つけた。

笠の少女「……すみません、少し尋ねたいことが……」

悠「あれは……たしかこの前の……」

人目を引くあのいでたちは、見間違えようがない。このまえ、借金取りに絡まれたときに助けてくれた子だ。

笠の少女「この写真のひとに、見覚えはありませんか?」

女子生徒A「えっ?あ、んー……」

笠の少女「どこかで見かけたとかでも構わないんです。何か知っていれば……」

女子生徒A「……ごめんなさい、分かりません。」

笠の少女「そう……ですか。すみません。ありがとうございました……」

少しばかり距離があるせいで声のやりとりが聞こえてくるくらいだが……。

悠「いったい何してるんだ?」

笠の少女「ふぅ……」

話しのほうは終わったみたいで、声をかけられた女子生徒と別れた件の少女は、肩を落として歩きだした。また誰かに声をかけるかと思ったが……疲れていそうな様子からして、もうかなりの時間ここにいたのかもしれない。

悠「……茶ぐらいごちそうするか。この前の礼に」

それに、疲れてる人を見過ごすのは茶屋主人としての沽券にもかかわる。小さな店でも、心構えだけはしっかり持っておかないと。

笠の少女「……」

悠「おーい、ちょっと、そこの……あ、まだ名前聞いてなかった……ひとが多いし、声かけただけじゃ分からんだろうし……なんて呼んだら気づくか……なんでもいいや、おーい!そこの笠っ子!!」

我ながらどうかという呼びかけは、幸いなのか不幸にもなのか、あの子に届いた様子は無かった。

笠の少女「……」

悠「くっそ、あの子歩くの早いな……悪い、ちょっとどいてくれ。おーい!笠っ子!笠娘!笠!!!ふうらいのシレンっぽい娘!!」

さすが人の往来激しい日本橋。人を避けて歩くだけで一苦労だ。ましてや追いつくなんて至難の技だった。

笠の少女「……」

悠「おー、ちょっと、待ってくれ!!」

笠の少女「…………」

声が聞こえてないのか、自分の事だと思ってないのか。雑路に埋もれた三度笠が再びおれの視界に現れることは無かった。

悠「くそっ……自動マーキングのスキル付けとくんだったぜ。今度みつけたら絶対にがさねぇ……ぜってーうちの茶を飲ましてやる!!」

寅「……なにいってんだ、お前?」

悠「うおっ?!寅ちゃん、いつのまに」

寅「なにこんな雑多の中で声荒げてんだよ。みて見ろ周りドン引きだぞ通行人。ただでさえ、見た目が気味悪いのに」

悠「だれの見た目が井戸の似合いそうな髪型だこの野郎」

寅「いってねーよ。その通りだけどな」

悠「おい!」

寅「なんでもいいけどよ。今からお前の所へ行くつもりだった。茶となんか喰わせろ」

悠「いいけど、金はちゃんと払えよな」

寅「少なくともお前の所の大飯ぐらい女よりはちゃんと金払ってるっーの。」

悠「あはは…………はぁ。」

寅「本気でため息つくなよ。ってか、そんなに大損なら解雇したらいいじゃねぇか」

悠「……吉音は吉音でいいところが沢山あるんだよ」

寅「よしね?誰の話ししてる?」

悠「っとと、新!徳田新にはいいところは沢山あるだよ。」

寅「ただのスケベ心じゃないのか?}

悠「全然ないったら嘘になるが……あいつは色気より喰いけだよ」
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