ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】

ー詠美の屋敷ー

悠「……って、も、もしかしてこれってすごく高価なものだったりするんじゃ。店に出すものだし、もしかするとまた割ってしまうかも」

なにせ徳河さんのお屋敷で使われてるものだし。

詠美「仮にそうだとしても、店でホコリをかぶってるよりいいわ。大掃除の一環だと思って、受け取ってくれないかしら」

平良「こう見えて詠美はなかなか頑固だぞ。一度言った事はなかなか取り消さないんだ。」

うーん、こう出されて断るってのも失礼になりそうだし。吉音みたいにとはいわないけど、もっといろいろ単純に考えてもいいかもな。もともと頭を使うのは得意じゃないし。

悠「それじゃ、ありがたくいただきます。」

詠美「ええ。是非活躍させてあげてね」

ぴりりり……
ぴりりり……

悠「?」

ぴりりり……
ぴりりり……

平良「小鳥遊の携帯じゃないのか?」

悠「あれ?おれなんで携帯持ってんだろ……置いて来たはずなのに」

詠美「携帯は常備するものでは無くて?」

悠「いや、はは……新からだ、すいません、ちょっと出ていいっすか?」

詠美「どうぞ……構わないわ。」

悠「すみません。失礼します……はい?もしもし?」

吉音『おーそーいー!悠、まだなの?』

悠「いや、もう済んだよ。悪い、悪い。そっちは大丈夫か?」

吉音『だーれもこないよ。ゆいにゃんが覗きに来たけどすぐに帰っちゃった。』

悠「それは……それで辛いな。とりあえずこっちは終わったから。もう少し待っててくれ。はなちゃんにもいっといて」

吉音『はーい、はやくねー』

ちょっと恥ずかしい内容だった……お二人に聞こえてなかっただろうか。

悠「えーと、そういうわけなんでおれはそろそろ失敬します。」

詠美「…………」

悠「え、あの……」

詠美「せっかく来たのだからもう少しゆっくりしていってはどう?良ければお茶も出すわよ。」

悠「はぁ……ですがその、店に新をのこしてきてまして。」

詠美「そう言えば徳田さんとはどういう出会いだったのかしら、茶屋の用心棒をしているのは聞いたけれど、その経緯が知りたいわ」

悠「えーと……おれがヤクザ、もとい馬鹿に店をやらされることになって、そのとき吉音が来て、なんだかんだと話してるうちに用心棒をするってことになって」

詠美「そう。そういう縁だったのね。でも人が増えると経営は難しくなるのではない?」

悠「まあ、そこは女の子が店に居るっていう華やかさの方で売り上げに貢献してもらえればと」

詠美「なるほど、合理的ね。最近は逢岡さんの委託という形で、目安箱というものを設置したようね。茶屋の経営との両立は大変ではない?私からも援助をすることは可能だけど」

悠「そんな大層なことをしてるわけでは……日常で起こるトラブルの解決なんかが、主な活動になってますし」

詠美「それでも学園のみんなのためになることよ。胸を張れるわ。」

えぇー……徳河さんの家にお邪魔しているのは栄光なんだけど、おれもう帰らないと……。なのに、なぜか矢次に声を掛けられて。なにか徳河さんは、おれを引きとめようとしている?

悠「あのぅ……?」

平良「さぁ?私にもわからん」

長谷河さんは視線だけでおれの意図を組んでくれたみたいだけど、特に好転はなかった。普段からこういう感じではないらしいけど……。

ぴりり……
ぴりり……

悠「おっと……まただ。すみません。」

吉音『悠ー、早く帰ってきてー!ふーくんとらいくんがきてるよー!』

悠「ふーくん?らいくん?…………風太郎と雷太郎か?!わかった、すぐ帰るよ!すいません徳河さん、長谷河さん。新からの催促で」

詠美「そう、それは仕方ないわね。またなにか困ったことがあったら、頼ってくれて構わないわ。大抵の事なら力になれると思うから。」

悠「わかりました。食器ありがとうございます。そんじゃ、申し訳ないっすけど失礼します。」

詠美「えぇ、誰か、悠を送ってもらえる?」

そうしてようやく、おれは徳河さんの屋敷を脱出することができたのだった……。




平良「……さっきのはなんだったんだ?詠美らしくない」

詠美「別に、なんでもないわよ。……そうね、男の子を家に入れることなんて滅多に無いことだし、きっと高揚していたのよ」

平良「ふぅん……それならそれでいいけどな」
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