ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

「ふむ、合気道か」

おれは感心して見ていた。きれいな形だ。
新は啖呵をきった。

「あたしはこの店の用心棒だ。悠やこの店に迷惑をかけるならあたしが相手だ」
「こ、このっ…」

足したに倒れていたチンピラが、足を取ろうとする。しかし新はそれを簡単にかわして、その手首をふみつける。

「あ、あいてて……っ!!」

「こ、こいつ…!」

「や、やっちまえっ!」

チンピラたちの表情が変わる。目配せすると一斉に殴りかかった。

「ふふっ」

三方向からの攻撃を踊るように避わす新。
突進してくるチンピラを避わすたびに着物の裾が翻ってまるで闘牛士のようだ。

チンピラの拳を受け流すと、新は相手の手首に手刀を振り下ろす。

「ぎゃっ…」

つぶれたカエルのような声をあげてまた地面に突っ伏してしまうチンピラ。

「く、くそう!」

別のチンピラが後ろから掴みかかろうとするが新は素早く身を屈める。
頭上でバランスを崩すチンピラ。

新はそこで一気に身体を起こす。
新の後頭部がチンピラのあごを直撃する。

「さぁ、残りは君一人だよ。」

「お、覚えてやがれ!」

「あ、逃げた。」

「はい、逃がさない。」

おれはお決まりの捨て台詞を吐いて逃げようとしたチンピラの頭を後ろから掴んだ。
指にゆっくりと力を込めると、チンピラはうめきなが膝を崩していく。

「行くんならこの倒れてるの連れてけ」

掴んでいた頭を離してやるとチンピラは涙目で俺をひと睨みして、他の二人を引きずりながらねずみやの方へ逃げていく。

騒動の一部始終を傍らから見ていたねずみやの客たちがざわめく。

「だから、うちの店に…」

「え?」

「迷惑をかけるなー!」

ねずみやの勢力圏に入ったチンピラに店から出てきていた由真の回し蹴りが一閃した。

同時に、シャッター音がする。

「あっちも強いなぁ…って、なんか変な音がしなかったか?」

「キキキ」

いつの間にか俺の肩にトビザルがちょこんと乗っていた。

気を失ったチンピラを見下ろして不機嫌に鼻を鳴らす由真。
勇ましいその姿にねずみやの客から歓喜の声があがった。

「ねぇ!こいつ、そっちでちゃんと片付けておいてよ!」

おれは条件反射的にいった。

「あ、はい」

由真は俺に後始末を言いつけると店にまた引っ込んでしまった。

「悠、怪我はない?」

新が俺の顔をのぞきこむ。

「怪我はないな。殴られただけ。」

殴った側のチンピラが痛がってたけど。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

「平気、平気。っか、新って強かったんだな。」

「えへへ、それほどでもないよ」
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