ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
視界は、ほぼゼロ。おれ自身も真っ白くなりながら白霧の中に突っ込んでいき、奴らへと間合いを詰める。狙いはどっちでも良かった。必要なのは奴らのコンビネーションを封殺する事。
「ぶはっ……なんだこれ?!」
「くそっ……奴はどこだ?!」
左右から聴こえてくる奴らの慌てた声。だが、次の瞬間、右拳と右拳が、おれの顔を挟むように靄の中から伸びて来た。
「「なんちゃってっ!!」」
びゅっ!ばっ!!
とっさに四股を踏むように足をガニ股に開いて、パンチを避けた。頭上では 二つの拳がぶつかるギリギリで止まる。そして、続けざまに拳は90度回転して真下に振りおろしてくる。追撃に対しておれはカエルのような体制で前に飛んだ。後ろからはビュッバッと風を切る音。
こいつら、見えているのか、それとも何か特別な意志疎通能力でもあるのかと疑わしくなるほどのコンビネーション。
「はずしたか。」
「はずしたね。」
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
寅がいっていた不協和音笑いを聞いて、おれはゾッとした。本当に気持ちが悪いくらい揃っている。
まだ、晴れぬ靄の中から声が飛び交った。
「こんな目くらましで」
「本当にどうにかなると」
「「思ったのか?」」
おれは身を低く据えたままいった。
「ああ、十分だよ。」
左足をうしろに下げて陸上選手のような体勢で地面を蹴った。肘を曲げて拳を握る。胸の前で、その拳を左手で押えて固定する。ドッと肘の先に突き当る衝撃。それと同時に聞こえたのは嗚咽だ。
「ごへっ……?!」
渾身の磐打肘頂がどっちかの男の胸にめり込んだ。
晴れていく靄の中から声がする。
「雷!どうした!」
ちょうど真反対側に風太郎が居るのが解った。おれは腕をはね上げて、裏拳を雷太郎の顔面に叩き込み。反対側へと向き変わり、両手で空気を叩いた。バフッっと何かが破裂したような音と衝撃が小麦粉の靄ごと吹き飛んでいく。
衝撃風に巻き込まれたあらゆる物体が吹き飛んで盛大な音を立てた。
とりあえず奇襲と風と雷への分断は成功。
しかし、うかうかはしていられない。なにしろ……。
「痛って~……野郎。やってくれるじゃないか!!」
ちょっとくらい、ひるんでくれる事も無く雷は立ち上がって向かってきている。
反撃とばかりにストレートを打ってきた。
おれは肩を反らし奴の拳を流して、左手で手首の辺りを引っ掴んだ。引き込んで、今一度奴の胸板に肘頂を穿ち込む。
手ごたえとしては硬い……華奢な見た目とは裏腹に中は鉄板でもいれているかのような胸板の厚さを肘先で感じつつ。掴んでいる手首を離して左手で自分の右拳を叩いた。
釘を打つのと同じだ。肘という釘を、左手というハンマーでたたく。
ゴッゴッと硬いモノ同士がぶつかる音。
「うぐぉっ……かはっ、捕まえた!!!」
「なっ?!」
食虫植物のようにガギリっと閉じられる両腕におれの肘が挟まれる。引き抜こうにも万力のような力で絞められてビクともしない。それどころか皮膚を引っ張られてミヂヂヂッと避ける音が聞こえた。下手に引き抜けば皮を持っていかれる。左拳を振り上げたが、誰かに手首をつかまれた。冷たいモノが背中を走る。
振り返り見えるはひたいからひと筋の赤い血を流す風太郎の笑顔。
「やるじゃん。お返しだっ!!」
引っ張られる左手、絞めつけられた右手。変な大の字になるおれの腹に目がけ、風太郎の膝が襲いかかり、鈍い痛みが込みあがってくる。
「もう、いっぱつ!」
「もう、いっぱつ!」
奴らが声をそろえ、二度目の膝蹴りがくるも右手で受け止めた。
がむしゃらに掴んだ肘を右側に放り投げる。
「あり?」
「むっ?」
キョトンとした顔をした風太郎をしっかりと雷太郎が受け止めて着地させる。
おれは反対側に飛び逃げた。そのあとにポタポタと赤い雫が追ってくる。無理矢理引き抜いた肘の周りの皮膚はミカンの皮を剝いたようになっていた。べろべろと垂れる皮膚を左手で力いっぱい押しつける。指の隙間からボタボタと血が落ちる。そのままで数十秒、手を離すと皮膚は何とか張り付いていた。
空気に触れさせて、血が固まるのを待ちたかったが奴らは待ってはくれない。
「やっるー。楽しいな。風」
「本当だな。楽しいね。雷」
意気揚々としている二人にため息が出そうになった。
視界は、ほぼゼロ。おれ自身も真っ白くなりながら白霧の中に突っ込んでいき、奴らへと間合いを詰める。狙いはどっちでも良かった。必要なのは奴らのコンビネーションを封殺する事。
「ぶはっ……なんだこれ?!」
「くそっ……奴はどこだ?!」
左右から聴こえてくる奴らの慌てた声。だが、次の瞬間、右拳と右拳が、おれの顔を挟むように靄の中から伸びて来た。
「「なんちゃってっ!!」」
びゅっ!ばっ!!
とっさに四股を踏むように足をガニ股に開いて、パンチを避けた。頭上では 二つの拳がぶつかるギリギリで止まる。そして、続けざまに拳は90度回転して真下に振りおろしてくる。追撃に対しておれはカエルのような体制で前に飛んだ。後ろからはビュッバッと風を切る音。
こいつら、見えているのか、それとも何か特別な意志疎通能力でもあるのかと疑わしくなるほどのコンビネーション。
「はずしたか。」
「はずしたね。」
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
寅がいっていた不協和音笑いを聞いて、おれはゾッとした。本当に気持ちが悪いくらい揃っている。
まだ、晴れぬ靄の中から声が飛び交った。
「こんな目くらましで」
「本当にどうにかなると」
「「思ったのか?」」
おれは身を低く据えたままいった。
「ああ、十分だよ。」
左足をうしろに下げて陸上選手のような体勢で地面を蹴った。肘を曲げて拳を握る。胸の前で、その拳を左手で押えて固定する。ドッと肘の先に突き当る衝撃。それと同時に聞こえたのは嗚咽だ。
「ごへっ……?!」
渾身の磐打肘頂がどっちかの男の胸にめり込んだ。
晴れていく靄の中から声がする。
「雷!どうした!」
ちょうど真反対側に風太郎が居るのが解った。おれは腕をはね上げて、裏拳を雷太郎の顔面に叩き込み。反対側へと向き変わり、両手で空気を叩いた。バフッっと何かが破裂したような音と衝撃が小麦粉の靄ごと吹き飛んでいく。
衝撃風に巻き込まれたあらゆる物体が吹き飛んで盛大な音を立てた。
とりあえず奇襲と風と雷への分断は成功。
しかし、うかうかはしていられない。なにしろ……。
「痛って~……野郎。やってくれるじゃないか!!」
ちょっとくらい、ひるんでくれる事も無く雷は立ち上がって向かってきている。
反撃とばかりにストレートを打ってきた。
おれは肩を反らし奴の拳を流して、左手で手首の辺りを引っ掴んだ。引き込んで、今一度奴の胸板に肘頂を穿ち込む。
手ごたえとしては硬い……華奢な見た目とは裏腹に中は鉄板でもいれているかのような胸板の厚さを肘先で感じつつ。掴んでいる手首を離して左手で自分の右拳を叩いた。
釘を打つのと同じだ。肘という釘を、左手というハンマーでたたく。
ゴッゴッと硬いモノ同士がぶつかる音。
「うぐぉっ……かはっ、捕まえた!!!」
「なっ?!」
食虫植物のようにガギリっと閉じられる両腕におれの肘が挟まれる。引き抜こうにも万力のような力で絞められてビクともしない。それどころか皮膚を引っ張られてミヂヂヂッと避ける音が聞こえた。下手に引き抜けば皮を持っていかれる。左拳を振り上げたが、誰かに手首をつかまれた。冷たいモノが背中を走る。
振り返り見えるはひたいからひと筋の赤い血を流す風太郎の笑顔。
「やるじゃん。お返しだっ!!」
引っ張られる左手、絞めつけられた右手。変な大の字になるおれの腹に目がけ、風太郎の膝が襲いかかり、鈍い痛みが込みあがってくる。
「もう、いっぱつ!」
「もう、いっぱつ!」
奴らが声をそろえ、二度目の膝蹴りがくるも右手で受け止めた。
がむしゃらに掴んだ肘を右側に放り投げる。
「あり?」
「むっ?」
キョトンとした顔をした風太郎をしっかりと雷太郎が受け止めて着地させる。
おれは反対側に飛び逃げた。そのあとにポタポタと赤い雫が追ってくる。無理矢理引き抜いた肘の周りの皮膚はミカンの皮を剝いたようになっていた。べろべろと垂れる皮膚を左手で力いっぱい押しつける。指の隙間からボタボタと血が落ちる。そのままで数十秒、手を離すと皮膚は何とか張り付いていた。
空気に触れさせて、血が固まるのを待ちたかったが奴らは待ってはくれない。
「やっるー。楽しいな。風」
「本当だな。楽しいね。雷」
意気揚々としている二人にため息が出そうになった。