ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【3】
ー大江戸学園内路地裏ー
今夜は雲のない夜だ。朝からシトシトと雨が降っていたが、綺麗な月夜。タバコの煙を吐き出すと天高く登っていく。薄暗い路地裏の半ばで俺は足を止めた。
「……へたくそな尾行いつまでもしてんじゃねぇよ。出てこい。」
闇夜に声を飛ばす。反応は無かった。それでもひとり、いや、二人ほどの気配を感じる。しばらく、大人しくしてたから恨まれるような事は無いはず。用心する訳じゃないが、俺は尻のポケットからテープを抜いた。夜をにらみながら拳にテープを巻きつける。
「こつちの準備はいいぞ。さっさと出てこいやコラっ!」
ふたたび闇を怒鳴る。次の瞬間、笑い声と影が二つ現れた。
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
「っ…」
気持ちの悪い双音。声は確かに二つ……なのだが、ひとつにまじりあったような音。どうやら、寸分の狂いもなく音が鳴っているらしく「は」の音と「ふ」の笑い声がひとつになっているようだ。俺の右手は自然と耳を押えてしまった。
男と思われる奴らは横並びになっていった。
「間違いだったら」
「困るから」
「一応」
「聞こう」
「お前は右京」
「山寅か?」
男たちは打ち合わせでもしていたかのようにひとつの言葉を二人で分けて喋った。不気味なほどナチュラルな発音。機械で録音して二つに分割して繋げたとしてもここまで繋がることは不可能だろう。俺は気味の悪さを覚えたが怒鳴り返した。
「右京で切るな!俺は右京山、寅だっ!」
「それは」
「悪かった」
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
気持ちの悪い笑い声を路地裏に響かせる。ぶっ飛ばしたい。今すぐにでも奴らの横面に拳を叩きこんでやりたくなり、拳を握った。殺気に気づいたらしく奴らも腰を落とした。
俺はズカズカと前に進みながらいった。
「喋れるうちにきいといてやる!テメェらは誰だ!」
「俺達は松永に」
「雇われた者さ」
「小鳥遊悠の側で」
「邪魔な男が居るから」
「半殺しに」
「しといてくれと」
「「頼まれた」」
どこまでも舐めた奴らだ。だが、ちょうど良い松永って奴とは話をつけたかった。コイツらを半殺しにして知ってることを吐かせてやる。
間合い三歩ぐらい距離に差し掛かった瞬間、俺から向かって右側の奴目がけてステップブローをしかけた。勢いの乗った拳が奴の顔面を捕えたが、バックステップで避けられた。逃がしはしない。追い込みをかけてるため踏み込み、左ストレートを放とうと肘を引いた。
だが、横腹に痛みが走る。
「ぐっ?!」
「よそ見は禁物だぜ?」
左側に居た男の蹴りがめり込む。俺は口の端をつり上げた。奴の足を左腕で巻き締める。捕えた。
「なら、お前からぶっ殺してやるよ!」
「だから、よそ見してるって」
今度はまた逆の奴が殴りかかってきたが、そのパンチを右手で受け止めて掴んだ。見え見えの戦法だ。握りつぶしてやろうと力を込めたが、左腕で絞めていた足がぐるりっと回転した。なんだと、横を向いたのが失敗だった。次の瞬間、鈍痛が顔面を襲った。
油断した。掴まれた足を軸に蹴りを仕掛けてくるほどの運動神経の持ち主だった。
何も見えない、顔の中で何かが破裂したような痛みと熱。背中に走る激痛とシャツに染みてくる水気。衝撃に耐えられず後ろに倒れたらしい。
視界が回復しないまま、声だけが聞こえる。
「ナーイスっキック。」
「そっちもナイスパンチ」
手を打つ音。ハイタッチでもしているのだろう。俺は地面を叩いて起き上ろうとしたが、再び顔面に痛みが襲いかかってくる。さらに今度は腹部にも突き刺さるような痛み。
顔と腹を蹴られ、俺はまた地面に打ちのめされた。
「コイツ、強いな」
「まだ、立ってくるなんてね。」
今夜は雲のない夜だ。朝からシトシトと雨が降っていたが、綺麗な月夜。タバコの煙を吐き出すと天高く登っていく。薄暗い路地裏の半ばで俺は足を止めた。
「……へたくそな尾行いつまでもしてんじゃねぇよ。出てこい。」
闇夜に声を飛ばす。反応は無かった。それでもひとり、いや、二人ほどの気配を感じる。しばらく、大人しくしてたから恨まれるような事は無いはず。用心する訳じゃないが、俺は尻のポケットからテープを抜いた。夜をにらみながら拳にテープを巻きつける。
「こつちの準備はいいぞ。さっさと出てこいやコラっ!」
ふたたび闇を怒鳴る。次の瞬間、笑い声と影が二つ現れた。
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
「っ…」
気持ちの悪い双音。声は確かに二つ……なのだが、ひとつにまじりあったような音。どうやら、寸分の狂いもなく音が鳴っているらしく「は」の音と「ふ」の笑い声がひとつになっているようだ。俺の右手は自然と耳を押えてしまった。
男と思われる奴らは横並びになっていった。
「間違いだったら」
「困るから」
「一応」
「聞こう」
「お前は右京」
「山寅か?」
男たちは打ち合わせでもしていたかのようにひとつの言葉を二人で分けて喋った。不気味なほどナチュラルな発音。機械で録音して二つに分割して繋げたとしてもここまで繋がることは不可能だろう。俺は気味の悪さを覚えたが怒鳴り返した。
「右京で切るな!俺は右京山、寅だっ!」
「それは」
「悪かった」
「「は(ふ)は(ふ)は(ふ)」」
気持ちの悪い笑い声を路地裏に響かせる。ぶっ飛ばしたい。今すぐにでも奴らの横面に拳を叩きこんでやりたくなり、拳を握った。殺気に気づいたらしく奴らも腰を落とした。
俺はズカズカと前に進みながらいった。
「喋れるうちにきいといてやる!テメェらは誰だ!」
「俺達は松永に」
「雇われた者さ」
「小鳥遊悠の側で」
「邪魔な男が居るから」
「半殺しに」
「しといてくれと」
「「頼まれた」」
どこまでも舐めた奴らだ。だが、ちょうど良い松永って奴とは話をつけたかった。コイツらを半殺しにして知ってることを吐かせてやる。
間合い三歩ぐらい距離に差し掛かった瞬間、俺から向かって右側の奴目がけてステップブローをしかけた。勢いの乗った拳が奴の顔面を捕えたが、バックステップで避けられた。逃がしはしない。追い込みをかけてるため踏み込み、左ストレートを放とうと肘を引いた。
だが、横腹に痛みが走る。
「ぐっ?!」
「よそ見は禁物だぜ?」
左側に居た男の蹴りがめり込む。俺は口の端をつり上げた。奴の足を左腕で巻き締める。捕えた。
「なら、お前からぶっ殺してやるよ!」
「だから、よそ見してるって」
今度はまた逆の奴が殴りかかってきたが、そのパンチを右手で受け止めて掴んだ。見え見えの戦法だ。握りつぶしてやろうと力を込めたが、左腕で絞めていた足がぐるりっと回転した。なんだと、横を向いたのが失敗だった。次の瞬間、鈍痛が顔面を襲った。
油断した。掴まれた足を軸に蹴りを仕掛けてくるほどの運動神経の持ち主だった。
何も見えない、顔の中で何かが破裂したような痛みと熱。背中に走る激痛とシャツに染みてくる水気。衝撃に耐えられず後ろに倒れたらしい。
視界が回復しないまま、声だけが聞こえる。
「ナーイスっキック。」
「そっちもナイスパンチ」
手を打つ音。ハイタッチでもしているのだろう。俺は地面を叩いて起き上ろうとしたが、再び顔面に痛みが襲いかかってくる。さらに今度は腹部にも突き刺さるような痛み。
顔と腹を蹴られ、俺はまた地面に打ちのめされた。
「コイツ、強いな」
「まだ、立ってくるなんてね。」