ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー新宿ー

新宿の駅に集まったのは昼過ぎだった。
つい先日、池袋のガキの王様:虎狗琥崇の野郎にはめられて借りを作っておれ、小鳥遊悠は新宿に呼び出されたのだ。

駅には呼び出した崇以外にヤクザの瓦谷拳二。
ダークスーツを着たゴリラも一緒にいた。

拳二もおれと同じで崇に借りを作ったダメな意味で仲間だった。

崇はおれを見つけると「着いてこい」とだけいって、すぐに駅から出ていく。
王様は庶民と挨拶をかわす暇もないらしい。

黙ってついていくと和風な一軒家の前で崇は止まった。

俺は建物を見上げた。
通りに向かって軒が張り出していて、いかにも縁台にお茶菓子なんか出しそうな感じがする。

みれば、梁には看板やのれんをかけそうな器具もある。

「鍵はこれだ。」

俺の目の前に拳二が鍵を落としてきた。
両手で受けとり、ひとまず戸を開けて入ってみることにした。

意外に部屋には埃もかかっておらず、家具や陶器も整理されていた。
並んでいる茶碗も皿も個人で使う数じゃない。

棚に茶筒をみつけた俺は蓋を開けてみる。
香ばしい芳香が立ちのぼった。

「まだ新しいな」

拳二がいった。

「つい、この間まで営業していたからな。」

「ふぅん…。じゃあ、ガスと水道も使えるんだよな?」

「あぁ、そのままだし、使えるように手配してあるからな。どうかしたか?」

俺は棚から急須を引っ張り出しながらいった。

「とりあえず、茶を淹れるよ。拳二はちゃぶ台出しといてく」

「おう。」

俺はお湯を沸かしながらいった。

「しかし、本気で俺はここで働かなきゃいけないのか?」

拳二は低く笑った。
ゴリラが笑うとこんな感じかもしれない。

「崇の借金踏み倒せるのか」

「…無理だ」

俺が首を左右に振ると今度は崇が笑った。
コイツが笑うと部屋の温度が三度は下がる気がするくらい冷たい。

「別に働けとはいってない。だが、何かしらの事をしていたほうがいいだろうとアドバイスしてやったんだ。その方が依頼もこなしやすいだろ。」

俺はため息をついた。
崇のいう依頼とは…ここ新宿で新宿のランカーと戦闘仲裁機関っていう奴らの問題に探りをいれながら、大江戸学園の動向を窺えというむちゃくちゃな内容。

しかも俺の預かり知らないところで新宿の大将に推薦したというのだからシャレにならない。

ちなみにこの建物は拠点に使えと言われてる。
俺は半ば諦めながら崇と拳二の前にお茶を置いた。

「はい、どーぞ。熱いからな」

二人は無言でひと口飲むとふぅっと息を吐いた。

拳二がいった。

「美味いな。」

「ありがとよ。」

「もうここで茶店をやったらどうだ?」

「茶店か…」

崇の借りはこの件を噛むことでチャラになるし。
自分の淹れたお茶が商売になるかはわからないが、利益が出たら全部俺のものにしてもいいと言われている。

悪くないかもしれない。
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