ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸学園内:民家ー

菊次郎「本当は苦手なんだけれど、佐那の作ったケーキだから食べてやるんだ。感謝しろよ……な……。だ、誰だ、おまえたちはっ!」

部屋に上がり込んできた菊次郎は、おれとシオンの姿をみるなり、疑心に満ちた目付きで睨んできた。

佐那子「菊次郎さん、この方たちは私の友達で…」

菊次郎「おっ、おまえには聞いていない。僕はこいつらに聞いているんだ」

悠「あー?」

菊次郎は食って掛かってくるでもなしに、露骨に警戒した目でおれたちを睨み付けている。見た目からでも何となく想像できたが、暴力に訴えるタイプでは無いみたいだ。

菊次郎「おい、答えろ。事と次第によっては奉行所に訴えるぞ。僕は奉行所にも知り合いがいるんだからな。」

なるほど、初対面のおれがいうのも何だけど、モテないだろうなぁ、と思わざるを得ない男だ。だけどまあ本当に訴えられても詰まらないし、ここは退散しておくとするか。

悠「おれたちはもう帰るところなんで、お構い無……」

シオン「訴える、だと?私はただ友人の部屋にいるだけだというのに……それを訴える、だとぉっ!?」

菊次郎「ひーっ」

悠「あ、シオン!部屋のなかで暴れちゃ不味いって」

シオン「邪魔するなよ、悠。うっかり斬っちまうぞぉ」

悠「バカッ、ここでんなことしたら、佐那子さんに迷惑がかかるだろ!」

シオン「そんなこと知るものか」

悠「いやっ、知るものかじゃなくてだな」

シオン「ああ、わかった。死体の処理もきちんとするさ。それでいいんだろ」

菊次郎「ししっ死体ぃ!?処理ぃ!?」

悠「だからどうして、そんな物騒な話しになるんだよ!?」

シオンの言葉は本気か冗談か分からなくて、いちいち焦らされる。焦ったのは菊次郎も一緒だった。

菊次郎「く、くそぅ……お、おまえたちの顔、覚えたからな!」

そう捨て台詞を残すと、逃げるようにいってしまった。というか……逃げていった。

悠「……良かったのかなぁ」

佐那子「まあ、見ての通り、度胸のない人ですから」

佐那子ちゃんはあきれた顔で肩を竦めている。そこに同情の色は、まったく見えない。……ちょっぴり、菊次郎くんに同情してしまった。

シオン「おい、佐那子」

佐那子「は、はい?」

シオン「おまえ、あの男ともうヤったのか?」

佐那子「えっ……」

悠「シオン……いきなり何を聞いてるんだよ…」

シオン「いいから答えるんだ。どうなんだ、佐那子」

佐那子「あ、あの……そういうことは卒業して正式に婚約してからにしましょう、って……」

シオン「つまり、まだヤってないんだな」

佐那子「はい……まぁ……」

シオン「く、くくっ……こんな美味そうな女を捕まえておいて、放置プレイで我慢するなんて……くっ、くははっ」

佐那子「あの、眠利……さま?」

シオン「く、くくっく、くくっ」

佐那子ちゃんが怪訝そうに問いかけても、シオンは喉を鳴らすみたいに笑い続けるのだった。
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