ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー雑穀屋ー

悠「えーと小豆に白胡麻、玄米……と。きな粉はまだいいかな。いや念を入れて足しておくべきかな?」

店主「取り置きはなかなか難しいですけど、次多めに取り寄せることならできますよ。」

悠「あー……余って無駄にするよりは、お客が多くて足りない方で困りたいいかな。っーことで、とりあえず、これだけでたのまぁ」

店主「毎度ありがとうございます。僕のためにも、ちゃんと売ってきてくださいよ」

注文通りの穀類が詰まった袋を手渡される。さほど大きいわけではないが、詰まっている中身のためか、存在感のある重み。言わずと知れた、小鳥遊堂で出す茶菓子の材料だ。

悠「うし、さしあたって必要なものは手に入ったし、お店に戻って仕込みでもするかな」

シオン「邪魔するよ」

悠「あー?えっと(その胸の谷間は)……眠利シオンだったっけ。珍しいところで会うな」

シオン「ふふ……私と君が、珍しくないところで会ったことがあったかな?」

そもそも会ったことがほとんど無い。シオンは吉音と同学年だとは聞いているが、どの地区に属しているのかすら知らない。

悠「……いわれてみればそうだな。まぁでもひとりでこういう店まで来るってイメージがなかったから」

シオン「私だって必要なものがあれば、買い出しにくらいくるさ。それとも……君が昼夜をわかたず、間近に傅いてくれるというのかな?それはとても甘美な提案だね……」

悠「……誰もそんな提案なんてしてないんだが」

あとむやみにそうやって迫ってくるのもご勘弁願いたい。本気で傅いてしまいそうになるから。

シオン「それは残念。というわけだ。兄さん、バニラビーンズをもらおうか」

店主「……はっ!?あ、は、はいはい、バニラですね。えーっと……」

ポカンと口を開いてこちらを見ていた店主が、針でつつかれたかのように飛び上がった。気持ちはわからなくも、ない。

シオン「どうした。早くしろ。種を出すのが君の役割だろ」

店主「はぁ……それがですね、その」

シオン「その?」

店主「バニラビーンズは売りきれて、しまってまして」

シオン「あァ?なんだって?売り切れ?」

店主「ひっ……!はいその、ちょっと前に、最後のが。ビーンズじゃなく、バニラエッセンスなら、別のお店にいけばあると」

シオン「貴様そんなもので媚薬ができると思ってんのか!あぁッ!?」

店主「ひいぃっ!」

悠「くあ……いきなり大声をだすなよ、驚くだろ。っか、なに、媚薬だって?」

シオン「そうとも。男だろうが女だろうが底の底まで心を開き、抑圧してきた情念に忠実になれる。その材料に紛い物を混ぜられるか知れ者が!」

店主「そんなこと知りませんって……いたた!引っ張らないでくださいよ!」

シオン「知らんで済まされるわけがないだろ!」
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