ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー


唯「うん。むしろ本気で心配してるんじゃないかな」

悠「いやいや。心配してる奴が、あんな言いがかりはしてこないだろ、普通。」

唯「言いがかりって?」

悠「えっと……目の前にうちの店があるせいで、和菓子のことを聞かれたりすることがあって迷惑だ、とか」

唯「なにそれ?由真姉ってば素直じゃないな~」

悠「あー?素直じゃないって?」

唯「だって、由真姉……あっ、ちょうどいいや。あれ見て」

唯ちゃんにいわれるまま、ねずみやの方に目を向ける。 すると、店先で客らしき女の子たちと話している由真が、どういうわけかうちの店を指差していた。やがて女の子は由真と別れ、こちらへとやって来る。

女子生徒A「お店、開いてますか?」

悠「あ、どうぞ。いらっしゃいませ」

女子生徒B「よかった。今日はなんとなく和菓子っていう気分だったんで」

悠「はあ」

ひとまず女の子たちを席へと案内し、注文が決まるのを待ちながら、唯ちゃんのところへと戻ってみる。

唯「ねっ?」

悠「いや……ねっ、て言われても…」

唯「まだわかんないの?」

そういえば最近、こんなふうに急にやって来る新規の客が前よりも増えてるような……。

悠「もしかして、由真がうちの店を紹介してくれくれてるのか?」

唯「せいか~いっ♪っていっても、うちのお客さん全部に紹介してるわけじゃないからね。メニューに和菓子がないかって聞かれた時に、もしよければっていう程度だよ」

悠「それでも十分ありがたいけど……どうして?」

由真「由真姉がさ、結果的にお客さんが喜んでくれるなら、それもサービスの一環だ、とかいってね。でも、本音は悠さんのお店のことを心配してるからだと思うよ?」

悠「……」

女子生徒A「注文いいですか?」

悠「あ、はい」

複雑な気分で黙りこんでいたおれは、お客の声でようやく我に返った。
そんなおれの様子を、唯ちゃんくすくす笑いながら見つめている。

唯「んじゃっ、もう行くね。いまのこと、ボクがバラしたって由真姉にいっちゃダメだよ?」

唯ちゃんがはそういってウインクをすると、軽やかな足取りでねずみやへと帰っていった。
なんとなくその後ろ姿を目で追っていると、ねずみやの方からこちらを見ていた由真と目が合う。

由真は一瞬、驚いたような顔をしたあと、「べーっ」と舌を出して、店の奥へと引っ込んでいった。

悠「やれやれ……」

女子生徒B「あの~、注文なんですけど~」

悠「あ、すみません。すぐいきます」

おれは頭を掻きながら、慌てて接客へと向かう。しかしまあ、なんていうか……意外といい奴なのかもしれないな、由真って。
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