ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「……暇だな」

口に出してしまうと、余計に虚しくなってくる。客が来ないのはいつものこととはいえ、この状況に慣れてしまってるのはまずい。

今日は吉音もまだ来てないし……。話し相手もなく、ぼんやりとしながら、溜め息を吐きつつお茶を口に運ぶ。

由真「枯れてるわねぇ、アンタ」

悠「あー、なんだ、由真か」

由真「なんだとはご挨拶じゃないの」

悠「客でもない相手に愛想を振りまいても仕方ないだろ?」

由真「振り撒けるほどの愛想がアンタにあるとも思えないけどね」

大きなお世話だ、とは口に出さないでおく。言い合いになっても不毛なだけだしな。由真だって、単に口が悪いだけで、ケンカを売ろうとしてるわけじゃないだろうし……たぶん。

悠「なにか用か?」

由真「別に用とかないけど、なんか暇そうにしてるのがみえたから、なんとなくっていうか……」

悠「……」

前言撤回。やっぱり喧嘩を売ろうとしているのかもしれない。

由真「なによ。怒ることないでしょ。暇そうなのはホントのことなんだから」

悠「別に怒っちゃいないが……ようがないならさっさと戻れよ。うちと違って忙しいんだろ、ねずみやは」

由真「まあ、そうなんだけど……ねぇ」

悠「あー?」

由真「やっぱアンタ、うちで働いた方がいいんじゃない?」

悠「はぁ?」

由真「だってほら……どうせお客さんなんてほとんど来ないんだし、隣同士で似たような店やってても効率悪いし。っていうかさ、目の前にこんな店あるせいで、たまに和菓子のこと聞かれたりして迷惑なのよね」

悠「あー?なんだよそれ。言いがかりにも程があるんじゃないか。」

由真「うっさいわね。私がこうやって誘ってあげてるんだから、そろそろ素直にうなずきなさいよ」

悠「あのなぁ……」

ここまで一方的な物言いをできるのは、ある意味すごいとは思うが、聞き入れるかどうかとは話が別だ。

悠「何度もいうが、ここはおれの一存で勝手にはできないし、客がいないように見えても、そこそこ常連はいるんでな。それにねずみやで働くことになったら、お前にこき使われるのが目に見えてるじゃないか」

由真「あっ、そ。せっかくひとが親切でいってあげてるのに」

悠「はいはい、気持ちだけありがとよ」

由真「ふんっ」

由真は不満そうに鼻を鳴らすと、肩を怒らせて店へ戻っていった。

悠「まったく……あいつはわざわざあんなことをいうためだけに来たのか?」

唯「なになに?由真姉になんかいわれたの?」

悠「ああ、唯ちゃん」

由真と入れ替わりに姿を現した唯ちゃんが、興味津々とばかりに顔を近づけてくる。鞄を手にしているし、やって来た方向からして、ちょうど学校から帰って来たところなんだろう。

悠「別に、たいしたことじゃないって。いつも通り、ねずみやで働けってあれだよ」

唯「あ~……」

悠「なんだって君のお姉さんは、そんなにうちのことを目の敵にするんだろうな」

唯「目の敵になんてしてないと思うよ?」

悠「そうか?」
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