ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】
ー大江戸学園:林内ペンションー
葉月「わあ、よかった。でも奥さんは、どうして気が変わったんですか?」
皿井「僕が看病に行ったのがよかったみたいです。本当は看病だけでなく金策に走り回ってたんですが……」
葉月「それも解決したから、結果オーライですよ。おめでとうございます。」
葉月が手を叩いた。それに釣られて、みんなも拍手した。
和斗「ほんとよかったです。でも奥さんが戻ってきたら、バイトはもう必要ないですよね。」
和斗がそういうと、皿井はかぶりを振った。
皿井「とんでもない。和斗くんの都合が良ければ、ずっと働いてほしいよ。」
和斗「ありがとうございます。ただ、どうするかはこれから考えます。」
そのとき、またスマホが鳴って、今度は葉月が電話に出た。
葉月「やったあ。ありがとうございますッ。編集長が原稿オッケーだって。うれしいっ。」
葉月は弾んだ声をあげて電話を切って、いきなり首に両手をまわして抱き着いてきた。
和斗はどきどきしつつ手を叩いた。
和斗「ほんとによかった。あきらめないで苦労したかいがありましたね。」
みんなの拍手がふたたび響いた。
バーベキューが盛り上がっただけに、肉も生ビールもすぐになくなる。補充をしに厨房に戻ったら、葉月が後についてきた。
葉月「ねえ、お願いがあるんだけど」
和斗「なんですか」
葉月「そう。それよ。」
和斗「それって?」
葉月「前にも言ったけど、そろそろタメ口で喋ってくれないかな。」
和斗「う、うん。わかった。」
葉月「じゃあ、あたしのこと呼んでみて」
和斗「は、葉月……さん」
葉月「もう、ぜんぜんダメじゃん」
葉月は笑って厨房を出たが、ちょっときて、といった。なにかと思ってリビングダイニングにいくと、葉月はテレビを指さした。
テレビ画面には、都議会議員たちが都内の台風被害を視察する様子が映っていて、藤堂旬一郎という若い議員がインタビューに答えている。
和斗「この藤堂ってひとのこと?」
葉月「違う。ここ見て」
葉月は人差し指を画面に近づけた。議員たちを囲む野次馬の中に、背の高い男が映っている。画面の隅っこだから顔はよく見えない。
葉月「これ、悠さんじゃない?」
葉月がいったとき、画面は別の場所に変わった。ちらりとしか見えなかったが、悠に似ていた。
和斗「もし悠さんたちだったら、なにをしてたんだろう。」
葉月「わかんない。でも、絶対そうだよ。」
葉月はウッドテラスにでていった。一緒に外に出ようとして、肉と生ビールを忘れたのに気が付いた。
厨房に戻りかけたら、玄関のドアを開いた。
宅配便の制服を着た男が一礼した。
「こちらに湯原和斗さんってかたは、おられますか?」
和斗「僕ですけど。」
「それじゃ、伝票にサインをお願いします。」
男はボールペンと細長い箱を差し出した。配送伝票を見たら、送り主は知らない人物だった。怪訝に思いつつ、伝票にサインして箱を受け取った。
包み紙を開けてみると、桐箱が出てきた。
桐箱のなかには、ぎらりと光る三徳包丁が入っていた。白木の柄がついていて、包丁の峰に、湯原和斗、と彫ってある。
こんなものを贈ってくるのは、あの男しかいない。目頭が熱くなるのを感じながら、包丁を箱にしまって自分の部屋に行った。
いまはまだ、この包丁は使えない。
その日が来るまで大事にしておくつもりで、自分のカバンに入れた。
和斗はウッドテラスに肉と生ビールを運んでから、庭を出た。
両手のこぶしを握って夜空を見上げると、降るような星が輝いていた。
葉月「わあ、よかった。でも奥さんは、どうして気が変わったんですか?」
皿井「僕が看病に行ったのがよかったみたいです。本当は看病だけでなく金策に走り回ってたんですが……」
葉月「それも解決したから、結果オーライですよ。おめでとうございます。」
葉月が手を叩いた。それに釣られて、みんなも拍手した。
和斗「ほんとよかったです。でも奥さんが戻ってきたら、バイトはもう必要ないですよね。」
和斗がそういうと、皿井はかぶりを振った。
皿井「とんでもない。和斗くんの都合が良ければ、ずっと働いてほしいよ。」
和斗「ありがとうございます。ただ、どうするかはこれから考えます。」
そのとき、またスマホが鳴って、今度は葉月が電話に出た。
葉月「やったあ。ありがとうございますッ。編集長が原稿オッケーだって。うれしいっ。」
葉月は弾んだ声をあげて電話を切って、いきなり首に両手をまわして抱き着いてきた。
和斗はどきどきしつつ手を叩いた。
和斗「ほんとによかった。あきらめないで苦労したかいがありましたね。」
みんなの拍手がふたたび響いた。
バーベキューが盛り上がっただけに、肉も生ビールもすぐになくなる。補充をしに厨房に戻ったら、葉月が後についてきた。
葉月「ねえ、お願いがあるんだけど」
和斗「なんですか」
葉月「そう。それよ。」
和斗「それって?」
葉月「前にも言ったけど、そろそろタメ口で喋ってくれないかな。」
和斗「う、うん。わかった。」
葉月「じゃあ、あたしのこと呼んでみて」
和斗「は、葉月……さん」
葉月「もう、ぜんぜんダメじゃん」
葉月は笑って厨房を出たが、ちょっときて、といった。なにかと思ってリビングダイニングにいくと、葉月はテレビを指さした。
テレビ画面には、都議会議員たちが都内の台風被害を視察する様子が映っていて、藤堂旬一郎という若い議員がインタビューに答えている。
和斗「この藤堂ってひとのこと?」
葉月「違う。ここ見て」
葉月は人差し指を画面に近づけた。議員たちを囲む野次馬の中に、背の高い男が映っている。画面の隅っこだから顔はよく見えない。
葉月「これ、悠さんじゃない?」
葉月がいったとき、画面は別の場所に変わった。ちらりとしか見えなかったが、悠に似ていた。
和斗「もし悠さんたちだったら、なにをしてたんだろう。」
葉月「わかんない。でも、絶対そうだよ。」
葉月はウッドテラスにでていった。一緒に外に出ようとして、肉と生ビールを忘れたのに気が付いた。
厨房に戻りかけたら、玄関のドアを開いた。
宅配便の制服を着た男が一礼した。
「こちらに湯原和斗さんってかたは、おられますか?」
和斗「僕ですけど。」
「それじゃ、伝票にサインをお願いします。」
男はボールペンと細長い箱を差し出した。配送伝票を見たら、送り主は知らない人物だった。怪訝に思いつつ、伝票にサインして箱を受け取った。
包み紙を開けてみると、桐箱が出てきた。
桐箱のなかには、ぎらりと光る三徳包丁が入っていた。白木の柄がついていて、包丁の峰に、湯原和斗、と彫ってある。
こんなものを贈ってくるのは、あの男しかいない。目頭が熱くなるのを感じながら、包丁を箱にしまって自分の部屋に行った。
いまはまだ、この包丁は使えない。
その日が来るまで大事にしておくつもりで、自分のカバンに入れた。
和斗はウッドテラスに肉と生ビールを運んでから、庭を出た。
両手のこぶしを握って夜空を見上げると、降るような星が輝いていた。
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