ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「自分ていうのは探すもんじゃなく、自分で創るもんだ。」

和斗「自分で創るもの……」

悠「過去の自分に縛られるな。下を向いても後ろを振りかえっても、アンタの星は見えない。ひとはその気になれば、いますぐにでも新しい自分になれる。さて……じゃあ、おれたちはもう行くぞ。」

和斗「また……また、どこかで会えますよね」

悠「縁があればな。」

悠と城は踵を返すと、急ぎ足で玄関を出ていく。

七人は慌てて後を追ってペンションを出た。

台風一過の雲ひとつない青空と、日差しを照り返す国道が目に沁みる。

ステラ「悠さーん、城ちゃーん、本当にありがとう。二人のこと、忘れないよ。」

ステラの隣で、団子沢が深々と頭を下げた。

飴矢も涙を拭きながら、何度も頭を下げている。

いつかまた、と皿井が声を詰まらせる。

皿井「いつかまた……このペンションに泊まりに来てください。」

城「はい、そのうち。今度は美味しいものを食べさせてくださいね。」

悠「お前が偉そうにするな。」

城「えぇ…」

釜石「兄貴ぃ、お嬢、きっとまた、きてくだせぇ!!」

悠「お、おう、またな。」

悠は苦笑いして足を速めた。

悠と城は駐車場にいくと、ジープに乗りこんだ。重圧なエンジンの音が腹に響く。和人と葉月はジープに駆け寄った。

運転席の窓がするすると降りて、悠の顔が見えた。

葉月「悠さん、城さん、ありがとうございました。」

葉月がうるんだ声でいった。はい、と助手席で城が片手をあげた。

悠「和斗」

和斗「ぇっ、あっ」

はじめて名前を呼ばれて身体がこわばった。

悠「アンタは料理に向いてる。それを何かに活かせ。」

和斗「はいっ!」

とたんに涙が頬を伝って、胸に熱いものがこみあげた。

運転席の窓が閉まり、ジープが走りだした。

それを追いかけようとしたら、葉月の指先が触れた。和斗はそれを握り返すと、もう一方の手で涙を拭った。

ふたりは手を繋いで、国道を遠ざかっていくジープを見送った。



その夜、悠たちを見送った七人のウッドテラスに集まった。

七人はウッドテラスのテーブルを囲んで、生ビールを呑んでいる。テーブルにあるバーベキューコンロでは、鉄串に刺した肉や野菜が焼けている。

悠たちが帰ったあと、皿井の提案で夜はバーベキューをすることになったが、みんな寝ていないだけに、いったん解散した。
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