ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

和斗「えっ、じゃあ、月に十万ページレビューっていうのは……」

飴矢「ホントは一万もないよ。仮想通貨で大儲けしたっていうのも嘘なんだ。ぼくはずっと働きもしないで、母さんからもらった小遣いで食べ歩きをしていた。だから、父さんと喧嘩ばかりしてて……」

父親と大喧嘩した腹いせに、父親の金をこっそり持ち出して、このペンションに来た。ここを選んだのは宿泊費が安いのと、鮒口に近いからだという。しかしブログを見た母親に居場所を知られて、電話がかかってきた。

城「それで?」

飴矢「とうさんとこっちに来るっていうから、来ちゃダメだっていったんだ。でも、父さんに居場所を知られたら、きっと連れ戻しに来る。」

和斗「それで交通機関が止まって欲しくて、台風来いっていってたんですね。」

飴矢はうなずいて手の甲で涙を拭う。

飴矢「でも、あした家に帰る。いまからじゃ、まともな就職はできないだろうけど、頑張ってみる。ブログも誹謗中傷をやめて続けるよ。」

悠「それがいい。知識や技術は、いつでも学べる。また知識や技術は時代とともに変わる。もっとも大切なのは心構えだ。」

飴矢「心構え……」

悠「いかに時代が変わっても、人の心は変わらない。人の心は経済と違って効率や利便性では動かない。むろん効率や利便性を重んじる奴もいるが、人は最終的に誰かの役に立つことでしか、喜びを味わえない。」

和斗「誰かの役に立つこと、ですか。」

悠「料理も同じだ。相手を喜ばせることが自分の喜びになる。それが無ければ、本当にうまいものは作れない。」

前に悠が言っていた時代の対極にあるものとは、そういう意味だったのか。

このペンションにきたときは、自分の将来をじっくり考えたいと思っていた。

たとえ捜査が目的であったにせよ、皿井が自殺するのを思いとどまらせたり、団子沢をステラに引き合わせたり、葉月と自分を熊から守ってくれたり、みんなの役に立とうとした。

そして悠は、たくさんの料理を作ってくれた。

和斗「僕は自分の将来をかんがえたくて、このペンションに来ました。要するに自分探しです。でも自分のことで精いっぱいだから、ひとの役に立てるだけの余裕がなくて……」

悠「無理にそうする必要はない。なにかしてやったと恩を着せるぐらいなら、最初から何もしない方がいい。誰かのせいにして我慢するから息が詰まる。自分を型にはめずに、もっとのびのび生きようぜ。」

和斗「はい」
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