ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「事件当時、アンタの父親は病気で長いあいだ入院していた。アンタはその隙にうどん屋に忍び込み、このテーブルに金を隠した。ナンバーから足がつく新札は残し、使用済みの一千万だけを持って逃走した。しかし最大の誤算は、アンタが姿をくらましているあいだに、父親が店の経営をあきらめて売却したことだ。そして、そのうどん屋を買ったのが……」

皿井「僕の父だったんです。」

皿井が言った。鮒口が舌打ちをする。

鮒口「俺を犯人扱いするんじゃない。証拠もない癖に。」

悠「アンタは、このテーブルに金が隠してあるのを知っていた。それをどう説明するんだ。」

鮒口「俺は金を盗んだなんて、ひと言もいっとらん。このペンションがうどん屋だった頃、このテーブルに大金が隠してあるのを見つけたんだ。」

悠「苦しいいいわけだな。」

鮒口「そういうなら、俺が犯人だって証拠を出してみろっ!」

悠「犯行に使われた車に残っていた指紋は藻木とは一致せず、主犯格のものと推定された。つまり、アンタの指紋だ。」

鮒口「バカバカしい。そんな消去法で犯人と決めつけるな。」

悠「消去法じゃない。アンタの指紋は、盗難車の指紋と一致した。」

鮒口「俺の指紋だと?」

城「さっき、貴方が生ビールを呑んだジョッキですよ。」

悠「ジョッキの指紋を撮影して本部に送り、データベースに照会した。」

鮒口「俺に飯を食わせたのは、そのためかっ!」

さっき悠がやけに饒舌で鮒口を持ち上げていたのは、指紋の照会結果が出るまでの時間稼ぎをしていたのだろう。

電話でペンションを壊すと脅したのも、鮒口をおびき寄せるために違いない。ペンションと一緒にあのテーブルが壊されたら、隠した金が見つかるからだ。

しかし時効はもう成立してしまったから、鮒口は自由の身だ。

悠はどうするつもりなのか考えていると

鮒口「汚ねえ真似しやがって。俺の指紋が欲しけりゃ、最初からそういえっ!」

悠「やけに強気だな。このあいだ、アンタがここに来たとき、指紋が採取できれば犯人だと特定できた。ところが、アンタはなにも飲み食いせず帰った。従業員にドアを開け閉めさせて、ドアノブにさえ触れなかった。」

鮒口「ふふふ、もし、俺が犯人なら、なかなかの知能犯だな。」

悠「アンタが犯人かどうかは、あの時点では分からなかった。ただ経歴を偽っているのは、早い時期から分かっていた。アンタは銀座の一流料亭の花板だったというが、それが事実なら合食金を知らないはずがない。」
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