ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

犯行当日、藻木と主犯格の男は口福銀行から五億円を強奪すると、盗難車に乗って逃走した。

ところが市内を走行中、主犯格の男がふたりで逃げるのは危険だといって、強引に車から降ろされた。男は後で合流しようといったが、それきり連絡が取れなくなり、分け前はもらってないという。

藻木は必死で男の行方を探した。しかし男は偽名のようで、居場所は掴めなかった。さらにテレビのニュースで、奪った札の番号が記録されているのを知り、追跡を諦めた。

藻木は逮捕を恐れて、それからは日雇い労働で生計を立てていた。だが、このところ体調がすぐれず、病院に行くと末期ガンだと診断された。

自分は余命いくばくもないのに、事件は間もなく時効になる。主犯格の男が金を独り占めにするのは悔しい。藻木が自首したのは、男を捕まえて欲しいからだという。

悠「問題は、主犯格の居場所と金の行方だ。奪われた紙幣のうち番号が登録されているものは、いままで使われた形跡がない。つまり、どこかに隠してあると考えるのが自然だ。近隣住民の証言によると、事件の直前、盗難車両が発見された草むらには黒いワゴン車が停まっていた。」

ステラ「あたし、それみたよ。」

悠「捜査本部は、主犯格の男がワゴン車に乗り換えたと推測した。そのせいで捜査は行き詰った。ところが、それらしいワゴン車は以後まったく目撃されておらず、道路の監視カメラやそれ以外の防犯カメラにも映っていない。ということは……偽装だった可能性がある。」

鮒口「話が長い!早く結論を言えっ!」

悠は鮒口が怒鳴るのを無視して続ける。

悠「藻木の供述によって、主犯格の男は一人で逃げた可能性が高くなった。しかしワゴン車に金を積んでいれば、確実に検問で捕まってしまう。となるとだ……五億円は車で運べないが、五十キロもの重さがある金を持ち歩くのは困難だ。もしワゴン車が逃走を偽装するためだったら、金は盗難車が発見されたこの付近に隠したと考えられる。そこで、おれに相談と操作の手伝いが入った。」

鮒口「どうだっていい。その藻木って奴がでたらめを吹いているんだ。」

悠「アンタの父親は嫁さんを亡くして、ひとりでうどん屋を切り盛りしていたな。つまりうどん屋は、お前の実家ということになる……そして、いまはこのペンションだ。」

鮒口の顔が引きづり、再び室内がどよめいた。
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