ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「いや、金はある。十年前、口福銀行から、お前が盗んだ五億円がな」

鮒口「な、な、なにをいう。」

鮒口は青筋を立てて舌をもつれさせた。

悠「このトランクは、お前が金を抜いたあと、ここの倉庫に隠したんだ。」

鮒口「わけのわからんことを抜かすなっ!」

悠「わからんなら、教えてやろう。」

悠がそういうと城がテーブルにあった食器を手早くどけて、どこからかバールを持ってきた。

悠はそれを手にすると、テーブルの中央にある囲炉裏から南部鉄器の鉄瓶を取って床に置いた。続けて囲炉裏のなかに勢いよくバールを打ち込んだ。

ばあんっ、と板が破れる音がして、囲炉裏の灰が舞い上がった。

鮒口「なんだ。なにをするっ!」

鮒口が立ち上がって叫んだ。悠がバールを引っ張り上げると、分厚い天板がべりべりと音を立てて浮き上がった。みんなは茫然として、それを見ている。

鮒口は悠につかみかかろうとしたが、城が背後から羽交い絞めにした。

悠はバールを床に放って、両手で天板を持ち上げた。

天板が外れた瞬間、思わず息を呑んだ。テーブルの台の中には空洞で、そこにぎっしりと真新しい札束が詰まっている。

うわっ、とみんなが驚きの声をあげた。いつも食事をしているテーブルの中に、こんな大金が隠されているとは思いもよらなかった。

くそおっ、と鮒口が喚いた。

鮒口「なんでわかったんだ!」

悠「お前の動きだ。犯罪者はどうしても金の隠し場所に視線が行く。このあいだ、お前がここに来た時も、このテーブルをちらちらみていた。それで察しはついていたがねさっきのお前の反応で、ここにあると確信した。」

鮒口は城を振り払りほどいた。

鮒口「それは、おれの金だ。横取りはさせんぞっ!!」

悠「心配はいらん。おれ達がもらうわけじゃない。藻木伸一って男を知ってるな」

鮒口「そ、そんな奴は知らん。なんのことだ。」

悠「藻木は先月、番所に出頭した。藻木は自分が五億円強奪事件の犯行に関わったといって、事件について供述をはじめた……」

鮒口「お、お前、いったい何者だ!!」

悠「大江戸学園将軍補佐役だ。」

ええっ、と室内がよどめいた。まさか悠が将軍補佐だとは思わなかった。

鮒口「貴様ぁ、俺をだましやがったな。」

悠「まあ、最後まで話を聞け。」

藻木によれば、主犯格の男とは地下カジノで知り合って、犯行を持ち掛けられたという。男は三十代半ばに見えたが、正確な年齢はわからない。当時無色で金に困っていた藻木は、男の誘いに乗って犯行用の車を盗んだ。
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