ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

鮒口「わかったわかった。そこまでいうなら食ってやる。ただし、俺も天下の鮒口だ。マズいものは、マズいというぞ。」

悠「大丈夫だ。遠慮はいらん。」

そう言った悠がパチンッと指を鳴らすと城が急いで厨房に入ると、料理を運んできた。城は料理を団子沢にも食べるように勧めてから、鮒口の前に皿を並べた。

城「飲み物はなにがいいですか?」

鮒口は太い首をかしげる。

鮒口「やけにサービスがいいが、毒でも入ってるんじゃないだろうな。」

悠「そんなものは入ってない。なんなら、城に毒味させてやる。」

鮒口「まあいい。生ビールをくれ。」

悠「持ってきてやれ。」

城「はい」

城が持ってきたジョッキを鮒口はぐびりと飲んでから、箸を手にした。鮒口は料理を一つ一つ味わっていった。

鮒口「ふうむ。ヤマメにふかしイモ、この生わさびは天然の物だな。」

悠「ひと口で見破るとは、さすがだな。」

鮒口はジョッキをあおって

鮒口「俺の舌を侮るんじゃない。ところで、これは誰が作った?」

悠「おれだ。」

鮒口「素人にしちゃあ、なかなかのもんだが、プロの仕事じゃないな」

悠「どの辺がプロと違う?」

鮒口「料理は味だけじゃない。旬の食材選びから盛り付けや器使い、こだわるところはたくさんある。」

悠「ほう。それは勉強したいな。」

鮒口「おとなしくするんなら、俺の店で食わせてやってもいいぞ。」

悠「アンタは銀座の一流店にいたそうだな。」

鮒口「そうだ。俺は花板だった。」

悠「それほどの腕なら、どこで商売しても引く手あまただろう。」

鮒口「まあな。いまでも超一流の店から誘いが来る。」

悠「あんたの料理の秘訣は何だ?」

鮒口「そんなことは一言ではいえんが、たとえば……」

悠に褒められて気を良くしたらしく、鮒口は生ビールを飲み干すと、料理の蘊蓄を騙った。城が空になったジョッキを下げてから、新しい生ビールを運んできた。

悠は饒舌に、なぜか鮒口を持ち上げるようなことばかり言う。

鮒口が喋っている途中で、城が悠になにか耳打ちした。鮒口はそこで我に返ったようにあくびをした。

鮒口「調子に乗って喋りすぎた。俺は帰るぞ。」

悠「わかった。最後に相談がある。」

鮒口「何の相談だ。」

悠「おれがこのペンションの抵当を買い取りたい。」

鮒口「駄目だ。ここは改築して、うちの支店にする。」
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