ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

葉月「悠さん達も、皿井さんにお金を貸してるんですか?」

悠「嘘だよ。」

皿井「鮒口さんが来たら、どうするんですか?」

悠「晩飯を食わせてやる。」

皿井「どうして晩飯を?」

悠は笑って答えない。でも、と飴矢がいった。

飴矢「そとは台風ですよ?それにあとちょっとで返済期間だから、放っておけばこのペンションを自分の物に出来る。鮒口さんは来ないんじゃないですか。」

悠「いや、必ず来る。だが、その前に別の問題を片付けておこう。」

和斗「別の問題?」

和斗が首をかしげると、悠は城に顎をしゃくった。城はうなずいて階段をのぼっていったが、まもなく胡桃沢を連れて一階に降りてきた。

胡桃沢は、ばつの悪そうな表情でうつむいている。

ステラはそっちを見たとたん、ダーリンと叫んだ。ステラは胡桃沢に駆け寄ると、大きな目から涙をあふれさせた。

ステラ「ダーリン、どこで、なにしてたか、あたし、ほったらかして!」

胡桃沢「すまん、ほんとうにすまない。」

胡桃沢もそういって大粒の涙を流した。

ステラ「もー、バカバカバカバカ」

ステラは号泣しながら、胡桃沢の胸を拳で乱打した。

胡桃沢が語ったところでは、工事現場で出稼ぎをしていたが、給料をギャンブルにつぎ込んだ挙句ホームレスになり、帰るに帰れなくなったという。

胡桃沢「お前に何ていえばいいのか、わからなくなったんだ。」

路上生活から抜け出せないままいたが、四日前に街頭でテレビを観ているとステラがインタビューに答えているのが映った。

胡桃沢「それを見たとたん、居てもたってもいられなくなりました。それで空き缶拾いで稼いだ有り金をもってペンションまできたんです。でも、女房に遭う勇気がなくて、偽名で泊まりに……」

和斗「偽名?」

和斗がそう呟くと、胡桃沢は頭を下げた。

胡桃沢「すみません。ほんとうは団子沢っていうんです。」

和斗「なんとなく、似たような名前ですね。」

胡桃沢は苦笑いして話を続けた。

このペンションに泊まってから、夜にステラが呑みに来ると知った。けれども、やはり顔をあわせる勇気はなく、声を聞くだけで我慢していたという。

それで、と城がいった。

城「事情を聞いた悠さんが説得したんです。女房にあってあげるべきと。」

ステラ「悠さん、ありがとう!!」

ステラは涙声でいって、胡桃沢改め団子沢を抱きしめた。
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