ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

九時を過ぎても、全員がリビングダイニングに残っていた。

部屋に戻ったところで、風雨の音がうるさくて眠れないだろう。みんな台風の様子が気になるらしく、テレビを観ながらちびちび呑んでいる。

悠と城は二階にあがると、服を着替えて降りてきた。

和斗「どうしたんですか、着替えて。」

城「もうじきお客さんがくるんですよ。」

和斗「お客って……誰ですか?」

悠「お前も知ってる奴さ。」

いったい誰が来るのか。首をかしげていると事務所のドアが開いて、皿井がようやく顔を出した。まだ疲れが抜けない様子だが、顔色は少し良くなった。

ステラ「皿井さん、帰ってきてたの?」

釜石「嫁さんの具合はどうなんだ?」

ステラと釜石が口々にいった。

皿井は妻の状況を話した後、改めて不在を詫びた。

城「まだ、調子悪そうですね。美味しい食事がありますから、食べた方がいいですよ。」

城がそう言うと皿井は礼を言って、へなへなと椅子に腰を降ろした。皿井は城が運んできた料理をおずおずと口に運ぶ。

皿井「本当に美味しいです。ぼくも仕事に身を入れて、ちゃんとした料理を作ればよかった。だから、取り返しがつかないことになって……」

おいおい、と釜石が言った。

釜石「なんだよ、そりゃあ。まるでペンションをやめるみてぇな言い草だな。」

皿井「はい。実はもう経営できないんです。」

釜石「ちょっと待てよ。やっと客がついてきたところじゃねぇか。」

皿井「でも大変な借金があるんです。妻の容態が落ち着いた後、ずっと金策に走り回りましたが、都合ができなくて……。」

釜石「なんで借金なんかしたんだ。」

皿井「うちは、ずっと赤字でしたから。今まで利息を払うのが精いっぱいだったけど、それも払えなくなって……今日が返済の期限なんです。」

振り子時計に目をやると十時になっていた。

釜石「今日って、あと二時間しかねぇぞ。」

皿井「ええ。だから、このペンションを借金のカタに取られるんです。そうなったら、妻に愛想を尽かされるでしょう。もうどうにもならないから、いっそ死んでしまおうと……」

皿井はきょう首を吊ろうとしていたところを、悠たちに助けられたといった。ステラと釜石が驚いた。

ステラ「皿井さん死んじゃダメよ。」

釜石「そんなに思い詰めてたのか。」

すみません、と皿井は消え入りそうな声でいった。
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