ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「ウロコをとったらヤマメを流水で洗う。そのあと顎とエラを外してワタと血合いを取って、ふたたび流水で洗う。キッチンペーパーで水気を拭き、全体が白くなるくらい塩を振る。焦げやすいヒレは塩を多めに振り、網で焼く。火加減は強火の遠火だ。」

葉月「強火の遠火って?」

悠「まず強火で表面を焼き、旨味を閉じ込めてから遠火にして、身をじっくり焼く。遠火の目安はガスコンロの場合、炎から八センチほど話す。ヒレに振った塩がきつね色に焼けてきたら食べ頃が」

ジャガバターは、想像したのとまったく違う味で驚いた。

ジャガイモは身が詰まって歯ごたえがあり、味が濃厚だった。ジャガイモにバターが合うのは当然としても、イカの塩辛があうのか疑問だった。だが一緒に食べてみると、イカの塩辛の塩気とコクがジャガバーの旨さを倍増させる。

ステラが大きな目をパチパチさせていった。

ステラ「これヤバい。ドチャクソうまいよ。」

釜石「変な日本語喋るんじゃねぇよ。……うめぇなこりゃ。マジやべぇぜ。」

飴矢「このジャガイモは身がしまって味が濃いから、旨味がすごい。ジャガバターにイカの塩辛を載せるのは北海道の食べ方だけどイケるねぇ。」

悠「ネギ味噌をつけて食べるって場所もあるらしい。」

葉月「あの、これの作り方って?」

悠「このイモは蒸篭(せいろ)で蒸したが、ジャガイモならレンジを使った方が簡単だ。」

葉月「レンジで?」

悠「まずジャガイモを皮ごとよく洗い、水気はふかずにラップに包む。六百ワットのレンジで五分ほど加熱して、爪楊枝が通るようになったらラップを外し、十字のきれこみを入れる。そこにイカの塩辛とたっぷりパターを乗せたら完成だ。」

葉月「簡単そうですね。今度うちでもやってみよう。」

リビングダイニングは和やかな雰囲気だが、窓の外は雨風が荒れ狂い、山が轟々と唸っている。テレビ画面には【台風十二号、首都圏を直撃】というテロップが出て、都心の様子を中継している。倒れた街路樹や自転車、路上に落ちた看板、道路の冠水、大混乱する駅が映し出された。

城「お待たせしましたお次です。」

城がそう言って細巻きをたくさん乗せた皿を運んできた。

和斗「これは?」

城「生わさびの海苔巻きです。生わさびを千切りにして酢飯とノリで巻いてありますから、がっついて食べると涙目になりますよ。それと、悠さんはかっぱ巻きですね。」

葉月「え、どうしてですか?」

悠「……おれはわさびが苦手なんだ。」

「「「えっ……」」」

一瞬の空白の後、誰からともなく笑いがこぼれた。悠は何も言わずかっぱ巻きに齧りついていた。
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