ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

夕方から雨が降りだして、夜には本格的な嵐になった。

横殴りの猛烈な風雨に、森の木々は今にも折れそうにかしいでいる。

テレビのニュースでは暴風雨の様子を各地から中継している。台風は速度を速めて、すでに首都圏は暴風域に入った。

時刻は六時を過ぎたが、まだ夕食は出ていない。

森での一件で時間を食ったせいでペンションに戻ったら五時を回っていた。皿井はそれからずっとオーナールームで休んでいる。

足首は軽いねんざのようで、葉月が救急箱にあったシップを巻いてくれて、だいぶ痛みが楽になった。

悠と城はジープで買いだしに行った後、厨房に入ったままだ。何を作っているのかわからないが、調理を手伝おうとしたら

悠「お前はじっとしてろ」

悠に断られた。

飴矢は何があったのかと、しつこく聞いてきた。しかし気安く説明できる話ではないから、適当に誤魔化した。

悠はうまくいけば、今夜すべて゛わかるといったが、あれはどういう意味なのか。嗄声はなぜ自殺しようとしたの華も分からない。

リビングダイニングでテレビを観ていると、玄関のドアが開いてステラと釜石が入ってきた。表には臨時休業と張り紙をしてあるが、それに気付かなかったのか。

和斗「すみません、今日は台風の影響で臨時休業なんですが……」

ステラ「わかってるよ。でも、台風怖い。うちの家、壊れそう。」

釜石「ステラんとこや、うちの近所は土地が低いから避難勧告がでてる。いつもの台風と違って今度のは危なそうだから、避難がてら一杯やらしてくれ。」

そういわれては断るわけにはいかず、二人を中に入れた。厨房を覗いて、二人分の食事があるか聞くと、食材は余分にあるから大丈夫だという。

七時になって悠と城がリビングダイニングに料理を運んできた。

飴矢はよほど空腹だったらしく

飴矢「うおー、待ちかねたよ。」

最初出てきたのは鮮やかなピンクのグラデーションがかかった肉だった。肉は筒状に巻いてあり、中から白と緑の野菜が覗いている。肉の皿の横には、わさびと醤油の小皿が添えてある。これは何の肉かと悠に聞くと

悠「牛タンだ。牛タンの中で、一番柔らかいタン元を軽めに焼いて、大根と青ネギを巻いた。」

和斗「もしかしてこのわさびは……」

悠「さっきとってきた天然わさびだ。わさびをおろすのには、鮫皮のおろし板を使った。」

飴矢「鮫皮おろしは目が細かいから、わさびの辛みと香りを引きだすんだよ。」
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