ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

城と皿井がそばに来て悠の隣に立った。城がリュックを降ろすと、中からビニール袋をとりだした。

城「私たちはこれを取りに来ていたんです。」

ビニール袋の中には、緑の葉がついた太い根っこがいくつも入っている。これは何なのかと首をかしげていると

悠「天然のわさびだ。すぐそこの沢に生えている。」

和斗「わさび?」

城「はい。わさびを取っていると、この人が木の枝にロープをかけていて。」

城は皿井の方を見た。皿井は頭を下げて身体を震わせながらいった。

皿井「申し訳ありませんッ。なにもかも厭になってしまって、つい……」

訳を聞こうとしたが、悠がそれを制した。

悠「今はそっとしておいてやれ。」

和斗「わかりました。」

城「それじゃあ、戻りましょうか。」

悠「ああ、先に行け。おれはクマに一応警戒しておく。」

城はリュックを担ぐと、皿井の腕を引いて歩きだした。

葉月「助けてくださって、本当にありがとうございました。その、助けてもらったのに、こんなこといいたくないんですけど……」

悠「なんだ。いってみろ。」

葉月「悠さん達は五億円強奪事件と関わりがあるんじゃ……」

悠「関わりはない、けどある。」

葉月「え、それはどういう?」

悠「とりあえず、アンタらが思っているのとは違うのは確かだ。」

葉月「えーと……?」

悠「慌てるな。うまくいけば、今夜全てがわかる。」

悠はそういうと歩きだした。

和斗は立ち上がったが、足首が痛んでよろめいた。

和斗「ッ…。」

大丈夫?と葉月が言って肩を支えてくれた。

悠「その足じゃ、今日の買いだしは無理だな。今夜の夕食は、おれが作ろう。」

悠はそういって森の中を歩いていった。

葉月「和斗君、さっきはありがとう。あたしをかばってくれて」

葉月は両手をそろえて頭を下げた。和斗はかぶりを振った。

和斗「そんな……お礼なんかいいですよ。」

葉月「どうして?悠さんがいなかったら、和斗君がクマに襲われてたのよ。」

和斗「僕は逃げようとしたけど、足をくじいて倒れたんです。たまたま葉月さんをかばうような格好になっただけで……」

葉月「それでも、熊から守ろうとしてくれたじゃん」

和斗「ま、また熊が来たら怖いから、早く戻りましょう」

和斗は足の痛みをこらえつつ、ぎくしゃくした足取りで歩きだした。
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