ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

リビングダイニングに料理を運ぶと、飴矢があくびをしながら階段を降りてきた。飴矢は二日酔いらしく、げんなりした表情でいった。

飴矢「喉が渇いたから起きたけど、朝ごはんは食えそうもないな。」

といったが、葉月の前に並んだ皿を見た途端、「うまそうだな。やっぱり食べる」と急いで席についた。

葉月は中華粥を乗せたレンゲをふうふう吹きながら言った。

葉月「原稿がボツって、落ち込みまくってるのに美味しい。最愛の人が死んだ日にも、人間は晩飯を食う、って山田風太郎って作家が書いてたけど、あれはほんとね。」

飴矢「中華粥は二日酔いに効くなぁ。それに西紅柿炒鶏蛋は驚いた。横浜の中華街で食べて以来だよ。」

と飴矢が言った。

そのとき、食材だけから発想するな、と悠が言った意味がわかった。悠は自分を含めて、葉月と飴矢がつかれているのに気づいていた。

いや三人だけでなく、皿井のことまで考えていたかもしれない。

だから胃に優しい中華粥と、栄養豊富で消化によさそうな西紅柿炒鶏蛋をメニューに選んだのだ。それにひきかえ、自分は単に食材で作れるものしか考えていなかった。悠がヤクザと付き合いがあって、本当は何の目的でここに滞在しているのかわからないにせよ、その点は見習わなければならない。

和斗は悠に朝食を作ってくれた礼を言った。

和斗「さっき言われた意味が分かりました。」

悠は無言でうなずいた。

テレビでは、今も台風情報が流れている。ふと事務室のドアが開いて、皿井が出てきた。

飴矢「あ、帰ってたんだ。」

飴矢の呟きに。皿井はみんなに頭を下げた。

皿井「みなさんにはご迷惑をおかけして、ほんとうに申し訳ありませんでした。僕が居ないあいだ、色々ご不自由されたと思いますが……。」

くどくどと詫びた。

飴矢「奥さんの具合はどうなんですか。」

という問いに、もう大丈夫ですと答えた。

皿井「ただ、みなさんもご承知の通り、非常に強い台風が接近しています。夜になると道路が通行止めになったり、土砂崩れが起きたりする危険がありますので、今のうちにチェックアウトされた方がいいと思います。今日からの宿泊はをキャンセルされても、代金は必要ございませんので……」

葉月「あたしは、ここにいます。仕事を続けなきゃいけないので。」

と葉月が言った。ぼくもいるよ、と飴矢が言って

飴矢「台風が来って、外に出なけりゃ平気でしょ。」
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