ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

和斗は厨房用のテーブルに食材を並べて考え込んだ。良いアイディアは浮かばなかったが、もう時間がない。

和斗「サバのみりん干し、卵焼き、キャベツのみそ汁、あとは漬物と野菜サラダでしょうか。」

悠「今ある物で考えろといったが、食材だけから発想するな。」

和斗「……どういうことでしょう」

前に行ったはずだといって、悠は鍋に湯を沸かすと、青ネギを刻み、ショウガを薄切りにした。和斗は悠にいわれてトマトをくし切り、ボウルで卵を溶き、そこに鶏ガラスープの素を混ぜた。

悠はホタテの貝柱の缶詰を開け、鍋の湯に缶の汁と薄切りのショウガ、ひとつまみの塩と醤油、中華スープの素を少量入れた。

湯が滾ってくると、鍋にたき上がった飯を入れ、おたまでゆっくりかき混ぜてから、ガスコンロを弱火にした。と゜うやら作っているのは、お粥らしい。

悠「フフライパンにごま油を多めに入れて、卵を炒めろ。フライパンをゆすりながらタマゴが全体に広がるよう炒めて、半熟になったら、いったん皿に取れ。」

和斗「は、はい。」

和斗はぎこちない手つきで卵を炒め、半熟になったところで皿に移した。

悠は鍋の飯を十分ほど煮込んでから、ホタテの貝柱を入れ。

悠「次はトマトを炒めて、途中でケチャップを入れる。トマトに火が通って皮がめくれてきたら卵をフライパンに戻して、少し炒めろ。最後に塩コショウを振って皿に盛れ。」

言われたとおりに調理していると、悠は粥にごま油を回し掛けして、すこし煮込んだあと器に盛って、その上から青ネギを散らした。さらに瓶詰のザーサイを出して小皿に乗せた。

和斗もトマトと卵を炒め終えて、皿に盛った。

和斗「そのお粥とこれは、なんていう料理ですか。」

悠「貝柱の中華粥と西紅柿炒鶏蛋(シーホンシーチヤオジーダン)だ。」

和斗「中華粥はわかりますけど、もうひとつは難しい名前ですね。」

悠「番茄炒蛋(フアンチエチヤオダン)とも呼ぶ。中国ではポピュラーな家庭料理だ。」

いまひとつ食欲はなかったが、味見をしたら急に腹が減ってきた。

貝柱の中華粥はホタテの旨味がたっぷりで、さわやかなショウガの香りとゴマ油のコクが見事に調和している。優しくまろやかな粥の味わいが、弱った胃袋に染みた。付け合わせのザーサイも、ほのかな辛みが食欲をそそる。

西紅柿炒鶏蛋はトマトの酸味と半熟卵の甘さが絶妙で、中華粥だけでなく、ご飯のおかずにも合いそうだった。
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