ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

皿井「もう退院した。しばらく安静にしてれば大丈夫だって。」

皿井はそう言ったが、顔はに安堵の色が見られない。服は皺だらけで、大きなボストンバッグをさげていた。

和斗「あの、本当に大丈夫ですか?」

皿井「ああ、悪いけど。すこし寝ていいかな。くたくたなんだ。」

皿井はそう言って事務室に入っていった。

和斗は葉月と顔を見合わせた。皿井は何も言わなかったが、トランクを見たのを気付いているかもしれない。だとしたら聞き耳を立てているかもしれず、その場では何も話せなかった。

葉月は原稿を考えるといって部屋に戻り、和斗も自分の部屋で横になった。けれども、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

起床時間をまわっているのに、皿井はまだ寝ているようで姿を見せない。よほど疲れているのだろうが、三日近くも留守にしておきながら無責任だ。

けさの朝食も、皿井は考えてくれそうにない。

眠気覚ましに顔をじゃぶじゃぶ洗って歯を磨き、髭を剃った。

そのあと厨房に入って、使えそうな食材を物色した。きのうはパンだったから、今朝はご飯がいいと思って、ひとまず米を炊いたが、オカズが決まらない。

使えそうな食材は、肉類だと粗びきソーセージ、ハム、ベーコン、魚介類だと冷蔵庫にアジトサバのみりん干し、缶詰の鮭、サバ、ツナ、ホタテ貝柱、赤貝がふる。あとはタマゴ、トマト、キャベツ、レタス、玉ねぎ、青ネギといった感じだ。

ほかにも海苔や漬物や瓶詰があるが、寝不足のせいか集中力がなくて、メニューが決まらない。悩んでいるうちに七時半になった。

リビングダイニングに眠そうな顔の葉月が居て、ノートパソコンをぼんやり見つめている。おはようございます、と和斗は声をかけた。

和斗「朝ごはん食べられますよね?」

葉月「うん、あんまり食欲は無いけど」

厨房に戻って、なんにしようか焦っていると、悠が入ってきた。

悠「ゆうべオーナーが帰ってきたようだな。」

和斗「え、どうしてそれを……。」

悠「……オーナーはどこにいる?」

和斗「そ、それが、まだ寝てるみたいで。」

悠は軽くうなずいた。

悠「今朝は何を作る?」

和斗「それがあの、まだ決まらなくて……」

悠「おれが料理に口を出すのは、今日で終わりだ。」

悠は無表情でいった。

和斗「じゃ、じゃあ、あしたからは来ないってことですか?」

悠「ああ、で、なにを作る。いまあるもので考えろ。」
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