ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

深夜、和斗は寝室代わりの四畳半で、布団に横たわっていた。

居酒屋の営業は大忙しで、すべての客が帰ったのは閉店時間をとっくに過ぎた十一時ごろだった。葉月は仕事を終えた開放感から、珍しく酔っていた。

飴矢もかなり酔っていたのは、ここに泊まっているのを誰かに知られたのが気になっているせいかもしれない。

客が帰った後も片づけや洗いもので疲れ果てたが、目が冴えて眠れない。

スマホで時刻を見たら、もう二時を回っていた。六時半には起きなければならないのに、全く眠れそうにない。

葉月は明日の朝には帰ってしまう。それを思うと寂しくてたまらない。一時間ほど前、パジャマ姿の葉月と廊下ですれ違った。

葉月「酔い覚ましにお風呂はいったけど、まだ酔ってる」

葉月は頬を赤く染めて、ふわふわした微笑を浮かべた。

和斗「大丈夫ですか。早く寝ないと風邪ひきますよ。」

和斗はどぎまぎしつつ、また気が効かないことを言った。

葉月「今日は楽しかった。じゃあ、おやすみなさーい。」

葉月はそう言って手を振った。彼女が去った後から湯上りのいい香りがした。その香りを思いだすと、頭がくらくらして余計に切なくなる。

葉月のことだけでなく、皿井が戻ってこないのも気がかりだった。未だに連絡が無いから、妻が本当に病気なのか疑問に感じる。

皿井が姿を消したのは、五億円強奪事件のニュースがテレビで放送された翌朝だった。皿井はその前に、悠から仕事に身が入ってないといわれた。

それから急に元気がなくなって厨房に戻っていたが、ペンションを出ていったのは、あのニュースが原因ではないか。

五億円強奪事件は今夜……正確には明日の午前零時で時効になる。

考えてみると、皿井は父親がこの建物を購入したといった。

もし皿井が犯人だとしたら、このペンションは奪った五億円を隠すのに好都合だ。その場合、父親がグルかもしれないし、父親が知らないあいだに隠したのかもしれない。

いずれにせよ、皿井は時効の前に捕まるのを恐れて身を隠したのではないか。そう考えた時、事務室の不審なドアのことが脳裏をよぎった。

この時間ならリビングダイニングには誰もいない。あのドアを開けて、中に何があるのか調べてみよう。なにもなければそれでいいが、もしあそこに五億円が隠されていたら……。

たとえ皿井が犯人で、捕まる前に時効が成立しても、奪われた金を取り戻せるし、葉月は大スクープをものに出来る。
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