ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

スーパーにつくと、悠のメモにあった食材を買った。

あしたの朝食の分も買っておこうと思ったが、なにがいいのか頭に浮かばない。葉月に食べたいものを聞くと。

葉月「いつも美味しいもの作ってもらってるから、簡単なのでいいよ。」

悠「でも、手抜きするわけにもいかないですよ。悠さんから怒られそうだし、飴矢さんも文句言うでしょ。」

葉月「手抜きしないで、厨房にある物で考えれば?」

和斗「それもそうですね。」

たしかに食材のストックはあるから、メニューは後で決めてもいい。買い出しを済ませてスーパーを出ると車に乗った。

エンジンをかけたとき、葉月が近くの湖へいきたがっていたのを思いだした。まっつすぐペンションに帰るのは物足りないし、あした台風が近づいたら、葉月は外出できなくなる。カーナビで場所を確認すると、さほど時間はかからない。

いまから湖にいってみませんか、そう切り出すと、葉月は目を輝かせた。

葉月「そんな寄り道する時間あるの?」

和斗「ええ。僕も言ったこと無いんで、見てみたいです。」

葉月「うれしい。じゃあ、行こう。」

和斗「はい。」

和斗はエブリイを走らせると、国道に入ってスピードを上げた。しばらく走り、駐車場にエブリイを停めた。

車を降りたとたん、セミの声とともに緑の香りがする風が吹きつけてきた。駐車場から少し歩くと、湖のほとりにでた。

湖は雄大な山並みを背景に、満々と水をたたえていた。雲間からわずかに日が射していて、青みがかった湖面にきらきら光っている。

ふたりは肩を並べて、それを見つめた。

葉月はポニーテールの髪を風になぶらせながら言った。

葉月「和斗君のおかげで、やっと夏休みって気分になった。ありがとう。」

和斗「いえ、こちらこそ、楽しい思いでができました。」

もっと気の利いたことがいいたかったが、社交辞令のようなセリフことしか出てこない。といっても、もっと踏みこんだことを言う勇気はなかった。



その日の夕方、悠にいわれて、いつもより早く厨房に入った。

城が手伝いに来たが、悠はそれを断った。

悠「客の様子を見といてくれ。なにか動きがあるかもしれん。」

城「わかりました。」

動きとは何なのか。気になったがなんとなく聞くのが怖かった。

悠は大きめの鍋をガスコンロに置いた。

悠「まず煮汁を作る。しょうゆ、みりん、日本酒を一、水を二の割合でボウルに入れてよく混ぜろ。そのあとニンニクの皮をむけ。」
53/86ページ
スキ