ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

その時、テレビで台風情報が流れた。

『大型で非常に強い台風十二号は、急速に発達しながら北上を続け、関東地方に接近しています。予想進路の中心を通った場合、明日の夜から、明後日の朝にかけて首都圏を直撃する恐れが高くなってきました。台風は上陸後も非常に強い勢力を維持するとみられ……』

よしっ、と飴矢が笑顔で手を叩いた。

飴矢「台風来い。絶対来いッ!」

葉月「なんでですか。逸れて欲しいのに」

飴矢「台風が来たら、ヤバいやつもこれないからさ。宿を移らなくてすむ。」

葉月「飴矢さんの事情はよく分からないけど、台風が来たら困りますよ。どこにもいけなくなっちゃうじゃないですか。」

飴矢「それは気の毒だけど、僕はありがたい。」

飴矢はいったい誰を恐れているのか、また気になることが増えた。

午後になって空は一段と曇ってきた。

すこし風が出てきて、あたりの森からざわざわと葉擦れの音がする。台風が近づいているせいかと思うと不安になる。

皿井はいつになったら、戻ってくるのか。

このままひとりで仕事をするのは疲れる上に気が重い。思い切って皿井のスマホに電話したが、呼び出し音はしばらくなって留守電に切り替わった。

和斗は二階にあがって、客室の清掃とベッドメイキングを始めた。皿井が居ないせいで作業に時間がかかる。

あたしも手伝おうかと葉月はいったが、夕食の配膳や客室まで手伝ってもらっているのに、そこまで甘えられない。

胡桃沢は、今日も部屋にいて清掃はしなくていいと断った。胡桃沢が宿泊して、今日で三日目だから室内がどうなっているのか心配だったが、無理に入るわけにもいかない。

清掃とベッドメイキングを終えて一階に降りようとしたら、入れ違いに飴矢が階段を登ってきた。

飴矢「気分がスッキリしないから昼寝する。台風が来たら教えて。」

客でも待っているような口調でいった。

リビングダイニングに行くと、いつのまにか悠と城がやってきていた。城は葉月とテーブルで喋っている。葉月はため息をついていった。

葉月「……そんなわけで、彼氏はいないの。」

城「そうなんですね。どんな人が好みなんです?」

葉月「うーん、頼りがいがある人が好きかな」

城「意外と平凡ですね。」

葉月「けど、期待してた人に裏切られちゃうんです。あたしが悪いところもたくさんあるんだけど、いつも落ち込んじゃって、しばらく彼氏はいいかなって……」
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