ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

外の掃除を終えてリビングダイニングに戻ると

葉月「よーし、原稿送ったあ」

葉月が明るい声とともに大きく伸びをした。

和斗「お疲れ様でした。無事に終わったようですね。」

葉月「ありがとう。何とか間に合った。」

和斗「じゃあ、今日はのんびりできますね。」

葉月「うん。なに食べよっか。って、あたしここにきてから、仕事以外食べることばっか考えてる。」

和斗「俺もですよ。これほど料理を意識したのは、初めてです。」

葉月「小鳥遊さんの影響だよね。」

和斗「ええ。飴矢さんの影響も微妙にありますけど。」

和斗は笑って飴矢の方を見たが、飴矢はテーブルに頬杖ついて、だるそうにテレビを観ている。スマホを手にしていないのは珍しい。

葉月「どうしたんですか。元気ないですね。」

飴矢「ちょっと悩んでることがあってね。」

和斗「なんですか?よかったら教えてください。」

葉月「あたしで役に立てることだったら、協力しますよ。」

飴矢「うーん……君たちなら、いってもいいか。ここに泊まってるのを、ヤバいやつに見つかっちゃってね。こっちにこられたらまずいから、予定を切り上げて移動しようかと思って」

ヤバいやつとは、昨日の電話相手だろ。

葉月「ヤバいやつって……誰なんですか?」

飴矢「それはいえない」

和斗「そのヤバいやつは、飴矢さんがここにいるって、どうしてわかったんですか?」

飴矢「ブログだよ。余計なこと書くんじゃなかった。」

葉月「飴矢さんは、相手の人に何かしたんですか?」

飴矢「いや、大したことじゃない。この話はもういいよ。ただね……」

和斗「ただ、なんですか?」

飴矢「ブログがなんか貼り合いなくってさ。更新するのがめんどくさくなってきた。」

葉月「でも、読者が待っているでしょう」

飴矢「実は昨日の昼、鮒口にいったんだ。宿を移ったら、もう顔を出せないと思ってね。そのとき、ここの料理が美味くなったって宣伝したら……」

葉月「だから、ゆうべ鮒口さんがきたんだ。」

飴矢「たぶんね。でも、あんな状況で終わっただろ。鮒口の料理はホントに美味しいけど、大将の性格はやだな。」

和斗「料理さえ美味しければは良いって、飴矢さんは言ってましたよね。」

飴矢「ずっとそう思ってたけど、違うような気がしてきた。どこが旨いとか、どこがまずいとか書いてるのが虚しくなってきた。」

葉月「そんな弱気じゃダメですよ。月に十万ページレビューもあるんだから。」
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