ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

翌朝、そらはどんよりと曇っていた。

掃除をしにペンションを出たら、日差しがないせいか肌寒い。

飴矢も寒いのかリビングダイニングにいて、ウッドテラスに出ようとしない。きのうに比べて落ち着いた様子だが、表情はパッとしない。

葉月は、あいかわらずパソコンの前で考え込んでいる。悠と城は、今日も朝からきていない。

昨夜は悠が作り直した料理のおかげで、失点を挽回できた。客たちが喜んだのは良かったが、今日の天気と同じように気分はスッキリしない。

料理についての知識のなさも情けなかったが、さまざまなものにレッテルを張って態度を変えている自分が嫌だった。

もっとも悠はヤクザと関係があるから、嫌って当然だろう。しかし悠は自分に危害を加えたわけでなく、むしろ仕事を助けてくれる。

今朝の朝食も何を作ればいいか迷って、ゆうべ悠にレシピを教わった。

メニューはタマゴハムサンド、アボガドとブロッコリーのマカロニサラダ、オニオンスープだった。

『タマゴサンドは時間があれば、茹で卵を使う。だが余裕がないならレンジで作れ。まず小皿に少し水を入れ、そこに卵を割り入れてから、フォークで黄身にたくさん穴をあける。』

水を入れたり黄身に穴をあけたりするのは、卵がさらにこびりついたり破裂したりするのを防ぐためだという。

『続いて小皿にラップを緩めにかけて、全体が固まるまで、様子を見ながらレンジで加熱する。それをフォークで潰して、マヨネーズと塩コショウであえる。パンにはバターとマスタードを塗って、潰した卵とロースハムを挟む。』

アボガドとブロッコリーのマカロニサラダは、最初に鍋でマカロニを茹で、茹であがる二分ほど前にブロッコリーを入れた。マカロニが茹であがったらブロッコリーと一緒にザルにあげ、アボガドと混ぜてオーロラソースで味付けした。

オーロラソースは同量のマヨネーズとケチャップに、少量のウスターソースと乾燥バジルを混ぜた。

オニオンスープは、横に薄くスラスイした玉ねぎを柔らかくなるまでレンジで加熱し、それを飴色になるまでバターで炒め、コンソメを加えて煮込んだ。

最後に塩で味を整え、粗びきブラックペッパーを振った。

どれも簡単なわりにおいしくて、葉月と飴矢は残さず食べた。

悠の助けを借りながら、陰ではヤクザの関係者と軽蔑するのは卑怯な気がする。といって、悠は五億円強奪事件の関係者という可能性すらある。せめてその疑いが晴れるまで打ち解けられない。
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