ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「かば焼きについてきたタレはあるか」

和斗「お客様に出してしまった分は使ってしまいましたが。それ以外は残ってますが……。」

悠はフライパンにみりんと日本酒を入れて煮立たせてから、そこに砂糖を溶かし醤油を入れて、再び煮立たせる。

悠「かば焼きのたれの比率は濃い口しょうゆとみりんを三、砂糖と酒を一だ。ウナギ屋で出すたれはもっと複雑な味付けだが、今は時間がない。パックについているタレが残っていれば、それも足す。タレ。」

和斗「は、はい。」

悠はパックについていたタレをフライパンに入れ、そのあとかば焼きを入れた。さらにかば焼きをタレと絡ませながら加熱した。

悠「ウナギの身や皮が固くなるのは、コラーゲンが固まるからだ。水分を補給して温めることで、柔らかい食感になる。皿を」

和斗「どうぞ。」

悠はかば焼きをひとつ皿に載せ、そこに紅ショウガを乗せた。

悠「あとは好みで、山椒と一味唐辛子をかける。味見してみろ。」

さっそくかば焼きを食べてみると、最初に出したものとは、まるで別物だった。身も皮もふっくらして、旨味のあるたれが身の中まで染みている。

客に出すとき山椒を忘れていたが、山椒をかけることで旨味が増す。合いの手に紅ショウガを食べると、口がさっぱりして箸が進む。

城「美味しいですね。とてもスーパーのウナギとは思えませんね。山椒と一緒に一味をかけたらご飯が欲しくなります。」

葉月「うわ、美味しいっ。さっきと全然違う。」

城「これだと、鮒口さんに食べさせてみたかったですね。」

悠「タレはたっぷりあるから、客に注文を聞いてうな丼かひつまぶしにしろ。」

和斗「ありがとうございます。お陰で助かりました。」

和斗が頭を下げると、悠は無表情にこっちを見ていった。

悠「相手によって態度を変えるのは、厭じゃなかったのか」

和斗「えっ」

悠「国産のウナギだから客が喜ぶと考えたり、相手が有名店の店主だからと鮒口の前でおどおどしたり、お前はレッテルに左右されている。」

和斗はハッとして目をしばたいた。

無意識ではあるが、悠の言う通り人間にも食材にもレッテルを張っていた。悠に対してもヤクザと関係しているというレッテルが嫌で、今朝からアドバイスを聞かなかった。相手次第で態度を変えるようでは、自分が嫌っていたバイト先の上司たちと同じだ。

自己嫌悪に陥ってうなだれていると

悠「イカ刺しは水気が飛んでいるからバター焼きにする。長いもはそのままでも旨いが、辛子明太子とあえた方が酒のアテになる。シジミのみそ汁はコクとボリュームをだすために油揚げを入れろ。」

悠は再び料理に取りかかった。
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