ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

和斗「そんなにややこしいと、区別がつきませんよ。」

悠「簡単に言えば、ニホンウナギの特徴があって値段が高いのが、より純度の高い国産だ。さらにこだわるなら、愛知県産や鹿児島県産や浜名湖産といった地名が表記されているものを選べばいい。」

和斗「じゃあ、俺が買ってきたのは純粋な国産のニホンウナギじゃないんですね。鮒口さんはそれが分かったから……。」

悠「国内でしっかり管理して育てたウナギが旨いのは確かだ。しかし外国産のウナギでも調理しだいで美味くなる。いま客に出している蒲焼を下げろ。どれが誰のだったか忘れるな。」

悠がそう言って立ちあがり厨房に向かう。

城「みなさん、ちょっとだけ待っててくださいね。」

城が笑顔でそう言うと、釜石が立ちあがっていった。

釜石「さっきはありがとうございやした。鮒口の野郎に、姐さんが啖呵切ったときは胸がすうっとしやした。」

釜石は足を広げると、両手を太ももに置いて一礼した。

城「え、姐さんて……私ですか!?」

釜石「はい。そう呼ばせてください。悠さんは姐さんの兄貴分ってことで」

城「いやいや、姐さんって……私はそんなんじゃないですから。」

和斗が皿を下げ始めたら、葉月と城が手伝ってくれた。釜石も手伝おうとしたが、城が追い返した。

その頃になって、ここが潰れかけていると鮒口が言ったのが気になった。借金が焦げ付いてトンズラしたとか、とも鮒口はいったが、あれはほんとうなのか。

皿井は開業資金の借り入れがあるともいっていたし、ずっと赤字続きらしいから、資金繰りに追われていても不思議はない。

皿井が出ていった前日には、なにかの督促らしい電話もかかっていた。

葉月「どうしたの。ぼーっとして」

葉月の声で我に返った。

悠はポットに湯を沸かすと、ウナギのかば焼きをバットに並べた。

悠「スーパーで売っている安いかば焼きは、工場のライン作業でパック詰めされている。その過程で見栄えをよくするために、最初からタレが塗ってある。出荷前の処理が適当な上に調理から時間が経っているせいで、蒲焼の表面とタレに臭みが沁みこんでいる。まずはそれを洗い流す。」

悠はバットに並べたウナギにぬるま湯をかけて、ていねいにタレを洗い流し、キッチンペーパーで水気を拭いた。まだパックしたままのかば焼きも同じようにして、別のバットに並べた。
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