ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠たちが席に着いて間もなく、玄関のドアが開いた。

ところがドアは開いたままで誰も入ってこない。和斗が様子を見に行くと、白い調理服を着た若い男がドアが閉まらないようドアノブを持っていて、外に向かってうやうやしく頭を下げている。

誰かくるような様子にドアの向こうを覗いたら、駐車場に泊まっていたベンツから、太った中年男が降りてきた。白い作務衣を着て下駄を履いている。

おととい鮒口にいったとき、カウンターにいた店主の鮒口靖だ。

鮒口は下駄を鳴らしながら、リビングダイニングに入ってきた。

若い男はようやくドアを閉めてたが、ボディーガードのように鮒口の背後に立っている。調理服からして鮒口の店の従業員だろう。

和斗はものものしい登場の仕方に緊張しつつ一礼していった。

和斗「いらっしゃいませ」

客たちも鮒口に気付いたらしく、室内が静かになった。鮒口はテーブルの前に立ったまま、分厚い唇を突きだしていった。

鮒口「今日の料理は何だ」

唐突な問いに、和斗はおどおどしながらいった。

和斗「め、メインはウナギのかば焼きです。」

鮒口はジロリトテーブルを見渡して

鮒口「ウナギだと。こんな外国産の安物が喰えるかっ!」

野太い声でいった。

和斗「い、いえ、これは国産ですけど。」

鮒口「どこが国産だ。おまえの目は節穴か。」

和斗「で、でもスーパーの値札には国産と……」

スーパーの値札といったせいか、客たちから失笑が漏れた。

鮒口「おまえが口答えするのは十年早いわ。恥を知れッ!」

和斗「す、すみません…。」

鮒口「最近ここの料理が旨いと聞いて様子を見に来たが、味見するまでもない」

ステラ「あんたうるさいよ。文句ばっかりいうな」

釜石「そうだ、てめぇの店が流行ってるからって、えらそうにいうなっ!」

鮒口「味のわからん貧乏人は、ひっこんでいろッ!」

釜石「誰が貧乏人だ。もういっぺんいってみろっ!」

鮒口「何べんでもいってやる!こんなところて飲み食いしているのは、貧乏人に決まっとる。」

釜石「なにい!」

鮒口「俺は、お前の勤め先の社長とも親しいぞ。それをわかっているのか!」

釜石は悔しそうな表情で唇をかんだ。

城「さすがにいいすぎじゃないですか。あまり調子に乗っていると、吐いた唾を飲むはめになりますよ。」

少女であるはずの城だが、その迫力に鮒口は一瞬ひるんだ表情になったが、すぐに険しい顔に戻った。

鮒口「皿井はどこにいる!」

城「今はいませんよ」

鮒口「ふん。さては借金が焦げ付いてトンズラしたか。」

城「どういう意味です。」

鮒口「ここが潰れかけてるってことよ。いまのうちに貧乏人同士で、せいぜいまずい料理を食ってろッ!」
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