ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

飴矢「どうして、ここがわかったの……いや、こっちにきちゃダメだ。僕が連絡するから……」

そんな台詞が聞こえてきて、葉月と顔を見合わせた。

飴矢はすぐに戻ってきたが、電話の相手は誰だったのか、急に口数が少なくなってウッドテラスに出ていった。

朝食の片づけや洗いものを済ませた後、二階にあがって客室の清掃とベッドメイキングをした。最後に胡桃沢が停まっている四番のドアをノックする。

胡桃沢「なんですか」

不機嫌な声がかえってきた。

和斗「あの、お部屋の清掃はどうしましょうか。」

胡桃沢「しなくていい」

和斗「……わかりました。」

胡桃沢は、なぜ部屋に籠っているのか。ゆうべは階段を途中まで降りてきながら、慌てて引き返したし、何を考えてるのかわからない。

皿井が留守の間に、何かトラブルが起こりそうで不安だった。



悠と城は昼を過ぎても、やってこなかった。

飴矢はウッドテラスでスマホを見ているが、立ったり座ったりして落ち着きがない。葉月はリビングダイニングでパソコンとにらめっこだ。ときどきため息をついて宙を仰いでいるのは、原稿が進まないからだろう。

壁の振り子時計は二時を指していた。

そろそろ夕食の買いだしに行かねばならない。まだメニューは決まっていないが、スーパーで食材を見ながら考えようと思った。

和斗「いまから買いだしに行ってきます。

葉月に声をかけると、彼女はパソコンから顔をあげていった。

葉月「夕食のメニューは決まったの?」

和斗「いえ、まだです。」

葉月「気分転換に、あたしもついていこっかな」

葉月が一緒なら、買いだしは一気に楽しくなる。

和斗「ぜひ。葉月さんさえ良ければ。」

和人は弾んだ声を上げた。

ふたりはエブリイに乗りこんでペンションを出た。葉月とドライブが寺と腕をしたいから、大型スーパーに向かった。

空は雲が多かったが、山々の緑は美しい。助手席に葉月が居るのが新鮮で、デートでもしている様に胸が高鳴った。

葉月「飴矢さん、電話で誰と話してたのかな。」

和人はハンドルを操りながら言った。

和人「さあ。変な会話でしたね。どうしてここがわかったの、とか、こっちに来ちゃダメ、とか……」

葉月「誰かに捜されてるのかな。誰かと合流するみたいな感じでもなかったけど」

和斗「まさかと思いますが、飴矢さんがあの事件の犯人ってことはないですよね。」

葉月「五億円事件の?」

和斗「ええ。」

葉月「ないんじゃないの。犯人がグルメブログなんてやらないでしょ」

和斗「まあ、そうですね。」
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