ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

葉月は美味しいといってくれたが

葉月「ただ、どっちかっていうと、もっと暑い日のお昼にたべたいかも。」

やはり涼しい朝には不向きだったらしい。

別のメニューにすべきだったと悔やんでいたら、悠の言葉を思いだした。

『味覚は食べる者の嗜好はもちろん、体調や気分も影響する。同じ料理でも日によって印象は違うだろう。』

昨日は暑かったのと夏らしいメニューにしたくて、素麺と焼きナスにしたが、考えが浅かった。そんな思いがつい顔に出ていたのか。

葉月「ごめんね。細かいこと言って。」

和斗はかぶりをふっていった。

和斗「そんな……率直な意見を言ってもらえた方が勉強になります。」

葉月「でも、率直な意見と分かってても、時々グサッとくるよ。あたしも原稿でダメ出しばっか喰らってるから、しょっちゅう凹んじゃう。」

飴矢「僕のブログもきついコメント書かれたら、ムカつくなぁ。」

葉月「飴矢さんはどうせいうこと聞かないでしょ」

飴矢はいひひと笑って誤魔化していった。

飴矢「皿井さんは、まだ連絡ないの?」

和斗「ええ」

葉月「あたしがいるあいだに、戻ってくるかな?」

和斗「戻ってこなきゃ困ります。奥さんが心配ですけど、何か問題が起きたら、俺の手に負えないし。」

飴矢「ところで胡桃沢さんって、なにしてるのかな。ぜんぜん見かけないけど。」

和斗「ずっと部屋に籠っていますね。」

飴矢「怪しいなぁ。なに考えてんだろ。」

ふとテレビの画面に暴風雨の映像が映って、大型の台風十二号が上陸というニュースが流れた。アナウンサーによると台風は今後、勢力を強めながら、上陸する恐れがあるらしい。

葉月「やだなあ。台風来ないでほしい。仕事がひと段落したらあちこち行こうと思ってるのに。」

飴矢「台風といえばコロッケだよね。」

和斗「どうしてですか?」

飴矢「ネットから広まったみたいだけど、なぜかコロッケが売れるみたいよ。スーパーじゃ、台風コロッケって名前で売ってるくらいだし。」

和斗「そんな話してると、コロッケ食べたくなりますね。きょうの夕食はどうしましょうか。」

葉月「うーん、なにがいいかな」

葉月か言ったとき飴矢のスマホが鳴った。

飴矢はスマホを見るなり、あわてて席を立つと部屋の隅まで行って電話に出た。こっちに背中を向けて、誰かと小声で喋っている。
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